カウンセラーとしての先生。必要な3つのスキルとは?

Last Updated on 更新日2018.7.3 by

 

この記事をごらんいただいているのは「先生」をお仕事としている方が多いと思います。先生の仕事は何らかの技術やノウハウなどを教えることですが、その業務のほとんどで人と人が直接対応することになります。生徒の技術やノウハウの習得がうまくいかない場合は、先生がカウンセラーとして生徒の相談に乗ることもあるかと思います。

カウンセラーとはカウンセリングを実施する専門家を指します。カウンセリングとは、広い意味では悩みを持つ人々の相談に乗ることを意味します。また、狭い意味ではその悩みは心理面に限定されます。先生という仕事においては生徒との対人関係が重要です。また、生徒が考えていることや思いを理解することも必要となることから、すべての先生業には「カウンセラー」の要素が含まれているともいえます。
あなたの先生業も、言い換えると「○○指導者兼○○カウンセラー」と表現できるのではないでしょうか?この記事では、カウンセラーに必要なスキルを通して、先生の「カウンセリング力」を高めるヒントをお伝えします。

カウンセラーはクライアントと同じ経験は必要ない

先にも挙げましたように、カウンセラーとは悩みを持つ人の相談にのる専門家のことをいいます。一般的に、カウンセラーという職を選ぶ人は、過去に相談者(クライアント)と同じ悩みをもった経験があるケースが多いです。たとえば、離婚で大変な思いをした経験から「離婚カウンセラー」になる、といったケースが挙げられます。

ですが、このようなケース、つまりクライアントと似たような経験を経てカウンセラーとなった人が、すばらしいカウンセラーになるかというと、そうは言い切れません。

経験をもとにカウンセリングを行うと何が起こるか

離婚カウンセラーを例に挙げますと、クライアントが離婚で悩む原因は一つではありません。経済的事情、配偶者の暴力、性格の不一致、配偶者の親戚との付き合いなど、少しイメージするだけでも多くの離婚につながる理由が思い浮かびますね。離婚カウンセラーは全ての原因について経験しているといえるでしょうか。当然ですがそのようなことはありえません。
もし、離婚カウンセラーが自身の経験をもとに相談業務に従事するとなると、「私のときにはこうだった。あなたはこのように対応すべき」というアドバイスを提供することになります。カウンセラーは、クライアントに「このように対応すべき」と解決法を提示することはありません。経験をもとに相談業務に従事すると、「離婚コンサルタント」となる傾向が高いといえます。

カウンセラーの本質とは

経験をもとに相談業務に従事するのが「コンサルタント」なのであれば、「カウンセラー」はどのように相談業務に携わったらよいのでしょうか。カウンセラーは、クライアントをゴールに導くことはしません。クライアントに安心な場所を提供し、クライアントの悩みを共有し、ともに答えを探していくのがカウンセラーの仕事になります。
クライアントからの相談において、コミュニケーションのキーワードとなるのが「傾聴」と「受容」、そして「共感」です。

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カウンセラーに必要な3つのスキル

「傾聴」とは「耳を傾けて、相手の話すことを受け止めながらしっかりと聴く」ことです。また、同じように思える「きく」ですが、「聞く」は耳に入る、「聴く」は積極的に耳を傾けるように、意味が異なってきます。「聴く」はその漢字のつくりから「十四の心で聞く」といわれます。自身が主体的に心を込めて話などを聴くことが重要なのです。
「受容」は相手のことを受け入れる、ということです。クライアントの考え方や感情をカウンセラーが受け入れるということです。「共感」という言葉は、日常の会話でも使うことがあるかもしれませんね。クライアントの気持ちや思いをカウンセラーが感じ取るだけでなく、カウンセラー自身の気持ちや考え方がクライアントの気持ちなどと一致していくことを共感といいます。日常会話においても、相手の気持ちや考えに同調する際に「共感」という言葉を使うことがあるのではないでしょうか。
では、日常に起こるような会話から、受容や共感の例を見てみましょう。

*共感の会話例

例1:
A「今日は暑いねー」
B「本当に暑いね。天気予報では35度まであがるって言ってたよ。」

例2:
A「○○っていうドラマ、見てる?」
B「見てるよ、俳優の××の演技が素晴らしいよね。」
A「自分も彼の演技が好きで見ているんだよ。」

例1はAさんの「暑い」という気持ちにBさんが「共感」していますね。また、例2では俳優の演技に対する思いがAさんとBさんで一致し、「共感」していることが分かります。

*受容の会話例

例3:
A「Bさんの趣味は何?」
B「読書かな。ビジネス書が中心だけど、月に何冊か必ず読むようにしてるよ。」
A「そうなんだ。ビジネス書が好きなの?私は小説なら読むけどビジネス書はあまり読まないかな。」

この会話例は、一見AさんがBさんの発言を受容していないように見えます。Bさんが「ビジネス書を読む」と言っているのに対し、Aさんは「ビジネス書はあまり読まない」と言っているためです。ですが、Aさんはビジネス書を読むBさんのことを否定しているわけではありません。この会話例ではAさんはBさんを受容しているといえます。

会話の基本は「傾聴」

また、例3ではAさんがBさんの会話を「傾聴」しているため、このような返事をしているとも考えられます。
AさんはBさんの発言を受けて「Bさんは好きだからビジネス書を読んでいるのかな?それとも仕事で必要だから読んでいるのかな?」と想像し、次の会話を発言しています。もしAさんが、「Bさんは企業に勤める管理職だから、きっと仕事の一環としてビジネス書を読んでいるのだろう」と考えたのであれば、「仕事の延長が趣味になっているんだね」といった、違う返事になるかもしれませんね。しかしこの返事は、Bさんが本当に好きでビジネス書を読んでいる場合、Bさんにとって違和感を覚える返事となってしまいます。

自分の思い込みや経験にとらわれず、Bさんの発言をしっかり聞いているAさんは、「Bさんの話を傾聴している」といえるのです。もちろんAさんの返事として「月に何冊くらい読むの?」という返事も傾聴、受容がされた会話の一例だといえます。

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意外とできていない「傾聴」

「傾聴はとにかく相手のことをしっかり聞いておけばいいんでしょ、簡単ですよ」とお思いの方もいらっしゃるでしょう。ですが、意外と難しいのです。

*傾聴ができていない会話例

例4:
A「Bさんの趣味は何?」
B「読書かな。ビジネス書が中心だけど、月に何冊か必ず読むようにしてるよ。」
A「読書が趣味なら、○○という作家さんの小説がおすすめですよ。」

AさんもBさんも読書について話をしていますが、少し会話がかみ合っていないようにも感じられます。BさんはAさんの返事のなかから「読書」というキーワードを拾い上げて返事をしました。Bさんがキーワードとしてあげた「ビジネス書」「何冊か」などは、もしかしたらAさんの耳に届いていなかったのかもしれません。

ちゃんと相手のことを聞いて会話をしているように思えても、人は意外と内容をしっかり聞いていなかったりします。また、自分の興味があるキーワードが出てきたり、一つのキーワードに注意をむけたりすると、ほかのキーワードが耳にはいらなくなることもあります。

*勘違いの会話例

例5:
A「ネットショッピングで定期配送サービスを頼んでいるんだ。よく使うものは毎月注文しなくても届くし、便利だよ。」
B「今はSuicaやPasmoでどこでも買い物ができるようになったから、本当に便利になったよね。」

Bさんはおそらく、Aさんの発言の中の「ショッピング」「定期」という言葉が気になったのでしょう。定期→定期券→ICカードという考えに至って発言したのではないでしょうか。ですが、ここでAさんが発言した「定期」は、交通機関の定期券の意味ではないことはお分かりになるかと思います。

例4や例5で挙げたような小さな行き違いは、自分では気づかないものですが、実は毎日の会話の中で頻繁に発生しているものなのです。会話での行き違いを発生させないためにも、相手の話していることを傾聴し、一体何を伝えようとしているのかを理解することが必要になるのです。

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共感できない相手でも受容はできる

カウンセラーの基本姿勢は傾聴、受容、共感だとお話しました。「傾聴は頑張ればできるかもしれないです。でも、受容や共感は会話の内容によってはできないものもありますよね?」とお考えの方もいらっしゃるでしょう。たしかに、共感できないような会話は多くあります。会話例をみてみましょう。

*共感がしにくい会話例

例6:
A「今日は暑いねー」
B「・・・。(暑いけど、風があるから昨日ほど暑くは感じないな)」

例7:
A「○○っていうドラマ、見てる?」
B「見てるよ、俳優の××の演技が素晴らしいよね」
A「…。(そうかなあ?ちょっと大げさでわざとらしい演技で好きじゃないなあ)」

いずれの会話でも、相手に遠慮して本音は話していませんが、相手に「共感」している会話だとは言いきれませんね。このような場合でも、相手を受容する会話に変換することはできます。

*受容・共感の会話例

例6-2:
A「今日は暑いねー」
B「今日のほうが暑いと思うんだね。私は昨日外にいる時間が長かったからか、昨日のほうが暑く感じるなあ。」
A「そうか、僕は昨日一日中家の中にいたから今日のほうが暑く感じるのかもしれないな。」
B「それなら今日のほうが暑く思うかもね。それにしても毎日暑いね。」

例7-2:
A「○○っていうドラマ、見てる?」
B「見てるよ、俳優の××の演技が素晴らしいよね」
A「へー、たとえばどんな演技?」
B「先週の放送で、××が主人公に語りかけるシーンはなんだかこっちも感動したよ。」
A「Bさんはあそこのシーンの演技に感動したんだね。ああいう雰囲気が好きなんだね。」

「あなたはこのように感じている、思っているんですね」と理解することが、相手を受容していることにつながるのです。

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受容・共感がしにくいクライアント

「あなたはこのように思っているんですね」という受容の会話は、一見簡単で、会話において当たり前のように見えます。では、下記のような会話例ではいかがでしょうか。

*言葉につまる会話例

例8:
A「最近本当につらいことばかり続いてて・・・。毎日泣いてばかりいるんだよ。」
B「・・・。」

毎日泣いている、という重い言葉から、簡単に受容や共感の言葉は口にしにくい雰囲気ですね。もし、Bさんが「そういうこともあるよ」「いつかいいことがあるよ」とAさんに返事をしたら、Aさんは「Bさんは私の気持ちを分かってくれた」とは思うでしょうか。つらい気持ちでいっぱいのAさんは、「Bさんにはこのつらい気持ちをわかってもらえない」と考えてしまうかもしれません。

Aさんがどれほどつらい思いをしているのか、Bさんにも、ほかの誰にもわかりません。このような場合には「そんなにつらいことが続いているんだね」と、Aさんの現状をそのまま受け入れるような返事をすることで、Aさんの思いを少しでも受容することができるのではないでしょうか。

カウンセラーがしてはいけないこと

このように、クライアントの話の内容に共感できないケースがあるかもしれません。そのような場合であっても、カウンセラーはクライアントの気持ちやクライアント自身を変えようとしてはいけません。

例8のケースのAさんも、次にBさんに会った時には「最近はいいこともあるし、落ち着いてきたよ」と無理して明るく話をするかもしれません。なぜならAさんは、Bさんが「元気なAさん」になるように期待しているのを察しているからです。Bさんの理想のAさんとなるよう、Aさんは無意識に行動しているのです。一方でAさんはBさんに心を閉じ、Bさんを信頼しないようになっていくと思われます。

クライアントの「いま・ここ」

私たちは誰かと話しているときに、過去や未来の話をしがちです。上の会話例でも、Bさんは「そういうこともあるよ」という過去の話、「いつかいいことがあるよ」という未来の話をもとに返事をしてしまうかもしれません。ですが、クライアントにとって重要なのは現在、「いま」「ここ」で話していることなのです。

カウンセラーは、クライアントが「いま・ここ」で伝えたいと思っていることを、できるだけクライアントの身になり、その気持ちや感じ方を想像して理解することが必要です。そして、その理解をクライアントに対し言葉で表現できたとき、クライアントはカウンセラーに「受け入れられた」と感じられるようになるのです。

傾聴と受容、そして共感は本当に難しいもので、簡単にできるものではありません。まずは相手の言うことを全身でじっくり聞くこと、そして相手の表情や声の様子、表現する言葉からその思いを感じることを意識したいですね。

話す人

よい先生はよいカウンセラーでもある

カウンセラーという仕事そのものに資格は必要ありません。カウンセラーは、自分で名乗れば今日からでもなれる仕事なのです。一方で、カウンセラーと名乗らなくてもカウンセラーとしての仕事をしなければならない人たちもいます。先生業がそれにあたるのではないでしょうか。

先生がカウンセラーとなり、生徒が「いま・ここ」で抱えている悩みや課題に沿うことは、生徒との信頼関係の構築だけでなく、生徒の能力向上につながると考えています。みなさんは、生徒にとってよき先生であり、よきカウンセラーとなっているでしょうか?指導力や技術力、多くのノウハウをもつ先生も「良い先生」といえますが、それだけではただの「指導マシーン」と同じになってしまいます。魅力ある先生となるためにもよきカウンセラーとして生徒に対応し、傾聴・受容・共感の力を高めていきたいものですね。

文:浅葉名津美(中小企業診断士、産業カウンセラー、キャリアコンサルタント)/編集:志師塾「先生ビジネス百科」編集部

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