Last Updated on 更新日2018.11.20 by 五十嵐和也
やるべきタスクが多く、朝早くから夜遅くまで仕事に追われて、一日の終わりにはどっと疲れが噴き出す・・・そのような働き方をされている方も少なくないと思います。
できることなら、仕事に追われる毎日から脱却したいと思われませんか?
残業0の働き方を実現するイクボスの存在!
一日中仕事に追われる働き方を改善する助けとなってくれるのが「イクボス」です。
イクボスという言葉を、皆さんは耳にされたことがありますか?
イクボスとは、「職場で共に働く部下・スタッフのワークライフバランスを考え、その人のキャリアと人生を応援しながら、組織の業績も結果を出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司」のことです。政府主導で働き方改革に関する議論が活発化し、ワークライフバランスの実現に注目が集まっている中で、イクメンに続いて今、イクボスが注目を集めています。
イクボスを積極的に推進している団体が、NPO法人ファザーリング・ジャパンです。今回は、ファザーリング・ジャパンの会員であり、ワークライフバランスコンサルタントとして活躍されている中倉誠二さんにお話を伺ってきました。
中倉さんはサラリーマン時代、大手企業の管理職を務めながら双子の子どもの育児をしており、ご自身の部下に対してもワークライフバランスを重視した働き方を推奨していました。まさにイクボスの先駆者の一人と言える方です。仕事と子育てについて、様々なことを伺いました。
この記事の目次
ワークライフバランスコンサルタントになったきっかけ
管理職の新しいリーダー像
—-中倉さんがワークライフバランスコンサルタントになられた経緯を教えて下さい。
4年ほど前から現在のワークライフバランスコンサルタントの仕事をしております。独立する前は、大手IT企業で営業部門の管理職をしていました。在職中に感じていたのは、管理職という立場は指導というよりもむしろ部下のサポートをする立場であるということです。
部下一人一人が仕事のできる人になってくれないと、チーム全体として業績が上がらないんですよね。実際に、部下がやる気を出して仕事をこなせるようになってくると、結果としてチーム全体の業績アップへと繋がっていきました。
世の中には、様々なリーダー像が論じられていますが、私自身は、上からではなく横からの目線でフォローしていくタイプのリーダー像をあるべき姿として考えていました。部下にはぜひ、新しいアイデアを数多く出してもらいたかったので、上司である自分が高圧的になってはいけないと思ったんです。
こういう考え方になったのは、育児の影響がありました。部下を育てる一方で自分の子どもを育てるという生活の中で、共通することが非常に多いと感じました。子育ての経験が会社の仕事にも役に立つということを、自ら実感したんです。
また、私自身が仕事と双子の子育てを両立していたという珍しい経験をしていろいろなことを感じたので、何かそういった経験を活かすことが出来るのではないかと思ったんです。それが、ワークライフバランスコンサルタントになろうと思ったきっかけですね。
メインの仕事内容-イクボス研修とは
管理職の意識を変えるイクボス研修
—-ワークライフバランスコンサルタントとしてご活躍されているんですね。具体的にどのようなお仕事をなさっているのでしょうか。
仕事の中心はセミナー講師や研修講師で、働き方改革やワークライフバランスに関するテーマが多く、またビジネススキル研修も行っています。最近では「イクボス研修」を行う機会が多くなっています。
——イクボスという言葉を初めて聞きました。イクメンは知っていますが、異なるものですか?
ボスとは、社長、役員や管理職など上司の立場にある方々のことです。イクボスとは、部下のワークライフバランスに考慮しながら仕事でも成果を出し、自らも公私ともに楽しんでいるボスのことです。管理職の方々を対象とした意識改革研修を、通称「イクボス研修」と呼んでいます。
昭和時代の固定観念の頭を切り替えることで、イクボスに変わっていただきます。若い世代が仕事もきちんとこなしながら私生活も充実させたいと思っていても、上司が長時間労働を推奨するような古い考え方だと、早く帰ることができにくい職場になってしまいます。上司が昭和時代の考え方を変えないと、若い世代との大きな意識ギャップが発生し、職場メンバーのマネジメントがうまくできません。
企業経営は、昭和の時代にはトップダウン方式で、上から下へと言われたことをこなす形が多かったと思います。そして、「とにかく時間をかけて終わらせればいい」という考え方が当たり前の時代でした。しかし、その考え方はすでに時代遅れになっています。男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、女性活躍推進法などを契機に、女性が働きやすい職場(=男性も働きやすい職場)が求められるようになりました。
管理職の方々が自分自身を変えて、それによって部下に良い影響を与えられるといいですよね。部下にも様々な事情があるわけですから。また、イクボスの方々ご自身の人生の捉え方も変わると信じています。
管理職の方々の意識改革を成し遂げるためには
無駄を見抜く
——今まで管理職として活躍されて、結果も残されてきた方々の意識の改革は非常に難しいのではないでしょうか。
それはそうですね。私としては、イクボス研修を受けていただいて、職場コミュニケーションの「きっかけ作り」にしてほしいと思っています。研修受講後に、部下の方々と話し合っていただく機会を設けて、一緒に働き方の見直しについて考えてもらうこともあります。
長時間労働問題が叫ばれるようになってきて、急速に企業がこの問題に危機感を強める状況になっています。しかしながら、企業によっては一律に残業を禁止することで、従業員が仕事を家に持ち帰って行うという状況が一部で発生しています。
これは根本的な解決とは言えませんよね?
——たしかに…それは問題ですね。仕事を毎日、一生懸命にされている方々にとって、残業を減らすと言っても、現状維持が精一杯なのではないでしょうか。研修ではどのようなことを話されていらっしゃいますか。
たとえば、長時間労働の原因には仕事の進め方に無駄があるのではないかと提起します。無駄に長い会議や分厚い書類の作成が、残業の原因の一つだと伝えます。会議のために時間をかけてパワポ資料を作り、何か通したい案件があれば、上司に長い文書でお伺いを立てます。会議の資料は、極端に言えばA4一枚でいいと思うんです。また、電子メールも社内同士なら3行で用が済むことも多いと思うんです。
また、最終的なOKが出るまでに多くの人に説明して時間を要する、これらに無駄があるのではないでしょうか?
会議や書類の量を大幅に削減しようということは、企業の中にいるとなかなか言い出しにくいことだと思います。みんなが当たり前にやっていることに異議を唱えるわけですから、面倒で手間がかかりますし、下手をすると自分の評価にも悪い影響が出ますよね?
しかし、誰かが「やめよう」「減らそう」と言わない限り、いつまでたっても「無駄」はなくなりません。そこで、私が第三者的立場で企業の中に入っていって、そのような提案をすることもあります。
双子の父と仕事の共通点
仕事と子育てには共通点があった
—-ここまで中倉さんのお仕事の特長お聞きしてきました。固定観念の打破から、新しい働き方ははじまる、まさにその通りだと思います。
次に、お仕事のもっとも強みとなっている部分を伺ってもよろしいでしょうか。
私には「ワークライフバランスコンサルタント」と「双子の父」という二つの顔があります。 一見すると全く関係のない、オンとオフの世界のように見えるんですが、実はそうではありません。よく考えると、この二つの役割には共通点が多く見い出せるんです。
たとえば…
①コミュニケーション能力の向上
こどもは、言葉を覚えてきちんと言いたいことが伝えられるまでには多くの年月を要しますよね。そしてきちんと話すことができるようになった後も、思春期など意外とすれ違うことがしばしばあります。家の中での家族同士でも、コミュニケーション能力は非常に重要なスキルなんです。母親だけでなく父親も、子どもと頻繁に会話することでコミュニケーション能力が高まっていきます。
自分の子どもと上手にコミュニケーションを取れない管理職が、他人である会社の部下と上手にコミュニケーションを取ることができるでしょうか?
家でやっていることが仕事にも役に立っている、子育てが部下のマネジメントにも活きている、そう思って仕事をすると部下に対する接し方も自然と変わりますよ。
②リスクマネジメント
小さな子どもは、親には想像もつかないことをやってしまいます。ベランダから誤って落ちてしまった、おもちゃで窒息死してしまったなど、非常に残念な事故も起こっていますよね。育児におけるリスクマネジメントは、そういうことが起こるかもしれないということに「気付くか、気付かないか」なんですよ。
仕事でも全く同じです。いかに先を読んで、リスクを想定できるかどうかが重要。そういうことに気付かないと、実際にトラブルが発生してからバタバタすることになります。部下の指導でも、細かいリスクに気付いてあげられるかどうかです。
管理職としての仕事と双子の育児を両立したという経験こそが、私の強みとなっています。2017年には、自分自身の経験をもとに『子育てでビジネススキルがアップする!』という著書を出版しました。
ワークライフバランスからライフシフトへ
人生100年時代の働き方
—-中倉さんにとって、理想的な働き方とはどのようなものですか?
医療の進歩などに伴って、最近では人生100年時代と言われるようになりました。そのうち会社で働くのはせいぜい40年間です。これからは会社のことだけではなく、それ以外のことにも幅を広げて人生を考える必要があるのではないでしょうか。
例えば、会社との付き合いは約40年ですが、子どもとの付き合いは60年ぐらいあるんですよ。
たしかに、「仕事が手一杯で忙しく、プライベートに使う時間なんてない」という気持ちも分かります。また、有給休暇の制度自体はあっても取得しづらいとか、自分一人だけ早く帰るのは気が引けるとか、会社・組織によって事情や雰囲気もあるでしょう。でもその働き方を組織として変えていかなければ、これからは良い人材が集まりません。
日本でもやっと働き方改革が進みつつあるんですから、職場の人と飲みに行くだけではなく、会社以外の何かに興味を持ち行動する必要があると思います。「働き方改革は生き方改革」と言われています。私生活の時間の使い方について、まずは管理職がお手本を示す必要がありますね。
実はイクボス研修などで、管理職の皆さんに自分自身の私生活を楽しんでいますかと聞くと、「早く帰ってもやることがない」「趣味は特にない」など、良い返事が返ってこないんです。会社一筋で生きてきた世代なんでしょうが、そんな状態で定年退職したらその後の人生はどうなるのでしょうか。
そんな危機感から、最近では中高年のライフシフトに関するセミナーを行っています。現役会社員のうちから、会社以外の活動を始めて定年後につなげていく、そんな考え方です。ビジネス雑誌などでも同様のテーマがよく取り上げられていますので、今後はライフシフト関係の仕事も増えていくと思います。
—-今回はワークライフバランスコンサルタントの中倉誠二さんにお話を伺ってきました。双子の育児と管理職としての仕事の経験やワークライフバランスコンサルタントとしての立場から、これからの働き方の一つのモデルについて見識をいただきました。残業体質の改善や新しい働き方の導入について考えながら、その着手方法に迷われている企業や管理職の方々は、中倉さんの研修やセミナーを受講されてみてはいかがでしょうか?