Last Updated on 更新日2020.3.20 by 44@jyuku
横浜で司法書士・行政書士事務所リーガルエステートの代表をされている斎藤竜さん。
事務所に入ると大勢の社員に迎えられ、個人事務所の多い士業のイメージとは全く違い少し驚きました。 この事務所では、「暮らしと財産を守る」というキャッチフレーズで不動産登記や名義変更などの司法書士として誰でも思いつく業務以外に、たくさんの業務を行っています。
斎藤さんの運営方針は「顧客の悩みの解決」です。 世の中には情報が氾濫していますが、相続、遺言、不動産の売買、会社設立等などの人生の転換点で自分に合う「ものさし」が見つからず、どういう選択をしたらいいか悩んでいる人がくいます。 「我々の仕事はそういう方々に法律や仕組みを解説して背中を押してあげることで、ありがとうと言ってもらえることが我々への報酬です」と言う斎藤さんの司法書士活動への想いを伺いました。
斎藤さんは「顧客の悩みの解決をすれば、それが地域の人びとをつなぐ架け橋となって、地域コミュニテイを醸成することができ、10年、20年先のお客様との絆をつなぐことになる」と言います。 実際、一度関係のできたお客様が次の機会にまた来所されて相談されたり、周りの人を紹介していただける例は多いそうです。
これだけ見ると順風満帆で進んでこられたように見えますが、じつは何段階かのステップ踏んで、ここまで来たわけです。
この記事の目次
司法書士としてスタート
斎藤さんは2003年に 司法書士資格を取得し、10年間司法書士事務所に勤務して人脈を広めました。 また、大手司法書士試験受験予備校の講師を担当しましたが、初回講座の出席者が8名しかいなかったことを経験し、「集客」の重要性を痛感しました。 その為、受講生の無料相談等を繰り返した結果、徐々に受講生が増え、累計200人の受講者を受け持ち、合格者も輩出するようになりました。 その間、自分が法律家として何をすべきかを考えるきっかけもあり、一緒にやっていきたいという仲間とともに2013年独立開業しました。
独立開業 ~ 最初はB to B の受注が大半だった
開業当初は1日20件を目標に登記案件獲得のため、飛び込み営業を繰り返し、名刺を配り歩く毎日を過ごし、そのがんばりから、現場の不動産会社、金融機関の営業マンからの支持をうけ、開業から1年で840件の登記案件を受注するようになり、社員10名で8,000万円の売上を上げるまでに発展させましたが、大手顧客の業務が急減して6,000万円に下がってしまいました。
受注の大半を大手一社に頼っていたという課題もありましたが、エンドユーザーから直接受注しないB to Bだけのビジネスに限界を感じ、下請け体質では、スタッフの雇用を守れないと痛感しました。
B to Cへのチャレンジ
そこで、自分が本来やりたかった一般市民の問題解決をし、下請けではなく、一般市民に関わる開かれた事務所を開設することにしました。 登記などの手続き業務だけでなく遺産相続、遺言、贈与、家族信託、などのコンサルティングと業務遂行という個人の顧客を対象にする事業へ拡大する為に、品川区の戸越銀座商店街に「品川・戸越銀座相続サポートセンター」を、横浜市神奈川区の六角橋商店街付近に「横浜・六角橋相続サポートセンター」を路面店として開設しました。
志師塾との出会い
ここで問題になったのは、それまで主に不動産会社からの受注に頼ってきたために、リアルの世界でのブランディングはできていても、インターネットを使ったB to Cの集客のノウハウが無かったことです。 いろいろな資格取得のための勉強を教えてくれる教室はありますが、マーケティングについて教えてくれるところはありません。 斎藤さんは志師塾に入会し、メルマガ、ブログ、YouTubeやツイッターの基礎を勉強し、ここまでわかれば後は自分でできるというレベルに達することができたのは、非常によかったと言います。
事務所づくり
一般市民に関わる開かれた事務所という考えは、その形によく表れています。 横浜の事務所は交通量の多い道路に面したビルの1階にあり、大きなガラス張りの入り口があります。 斎藤さんによれば、「いくらインターネットを使ってもそれではカバーできない顧客がある。 例えば、この地域には高齢者が増えていますが、そのような方が簡単に入ってこられるようにしたい」という思いがあったそうです。 無論、道路に面した事務所の経費は大きいですが、広告費と考えれば納得できます。それまではビルの中の事務所を使っていましたが、実際に事務所を見て入ってこられ、相談をして継続した顧客になった方も少なくないそうです。
斎藤さんの事務所では B to C事業で一般の顧客に接するという意味で、専門家事務所というより小売店の手法を多く取り入れているようです。 この写真は事務所の入り口ですが、中に何があるのか、何をしてくれるのかがとても良くわかるようになっています。 これは小売の店づくりと全く同じで、顧客は中がわからない店には入ってくれません。 どんな商品があるのか(司法書士・行政書士事務所なら相続、遺言など)がはっきりわかれば、何となく敷居が高い感じのする事務所にも入ってくれます。
また、この写真は入り口横の壁にたくさん貼ってある「お客様の声」です。 このようなものがあると初めて来た人には安心感を与えます。 無論、「お客様の声」の鉄則である、いただいたコメントには丁寧に回答するということも徹底されています。
もう一つは、事務所に入るとそこにいる社員全員が、「いらっしゃいませ」と挨拶することです。 そして、さらに大事なのは、帰る時も机に向かって仕事をしている社員の方々が、全員立ち上がって、「有難うございました」と挨拶します。これも、小売業の鉄則であるピークエンドの法則(一番よい印象を与えると同時に最後が大事)を実践しているわけです。
そのような事務所づくりの効果もあり、現在では年間500件以上の相続・生前対策に関する相談を受け、テレビなどでも取り上げられるようになっているとのことです。
さらに B to B 事業へ
事務所の開設により、一般顧客を対象とする事業が拡大しても斎藤さんはそれで満足しませんでした。 つまり、「多くの企業や個人をサポートする士業・専門家は悩みをもつお客様の問題解決にあたることができる存在だから、士業・専門家が心の中で持っている顧客の役に立ちたい」という想いを実現させ業界を変えたい。 それが、「士業・専門家の先の多くの方の問題解決、そして日本の元気に繋がる」との信念で「自分が味わった苦しみを糧に得た知識・ノウハウを、同じような悩みを持つ士業・専門家に提供するべきだ」という考えに至ったわけです。
斎藤さんは(株)船井総合研究所での相続・財産管理研究会における2018年度MVPを受賞され、上の写真はその時の講演ですが、これ以外に事務所の経営や司法書士としてのご自身の業務に加えて、士業を対象としたB to B 事業も積極的に推進されています。 その一例をあげると
●司法書士資格受験予備校TACの講師を6年間担当
●一般社団法人家族信託普及協会、神奈川税理士会、TKC神奈川会、野村不動産アーバンネット株式会社、保険サービスシステム株式会社、三井住友信託銀行、などで多くの講演
●フジテレビ「バイキング」、士業経営専門誌「FIVESTAR Magazine」「月刊登記情報」「全国賃貸新聞」「家族信託ガイド」「TACNEWS」、「城南信用金庫家族信託冊子」 制作協力
などです。
この様な活動は斎藤さんの事業の認知度を上げると同時に、コンサルティングに強い専門家としてのブランドの強化につながります それを活用して、現在は、「手続き代行からコンサル業務への転換したい士業・専門家」を対象に志業未来塾という会員制のオンラインサロンを運営されています。 この塾の会費は月額2万円と決して少ない額ではありませんが、80人を超える参加者が月一回の定例会に参加し、斎藤さんの講演(年2-3回)や各種専門家の講義で学んでいます。
インターネットの活用
斎藤さんのこのような活動の支えになっているのが、先ほどの志師塾で学んだインターネットの活用です。 ホームページやFacebookでは「家族信託・生前対策コンサル活用術」「士業・専門家の顧客獲得受注力を学ぶ」などのセミナーの案内が有り、週1回から多い時はほとんど毎日更新されているブログでは「家族信託導入期から成長期へとフェーズが変わる中、取るべきポジションとは!?」「財産管理対策としての家族信託と不動産法人化|不動産法人化のメリットとは!?」という少し詳しい内容が発信されています。さらには、関連書籍やDVDの販売まで入っているという多彩さで、まさにインターネットでの集客のお手本のように感じます。
また、これに加えて、YouTubeでの発信も積極的に行っています。 斎藤さんの作るYouTubeの動画はじつはブログと同じ内容なのだそうです。 同じ内容を動画にするのは、文章を読むより動画で学んだ方が良いとする人が増えているからで、ブログに書いたことを自分でカメラに向かって講義してすぐにアップします。 また、この方法は、SEO対策としても有効だということでした。 さらに、新しいオンラインサロンではZOOMなどを使ってリアルタイムで多くの参加者と情報交換ができるようにする計画だそうです。 取材が行われた時も、会議室はちょうど撮影を終えた状態でカメラや三脚とパソコンが残っていました。
事務所の経営
リーガルエステートには司法書士6名と行政書士2名を含む13名が勤務しています。 他にも在宅で勤務している方もあり大変なパワーです。 また、必要に応じ、弁護士や税理士との連携もとれるバーチャル組織ができており、顧客の悩みを解決することがワンストップでできる体制を作られています。
経営者としての斎藤さんは、最初は家族的な経営を考えていましたが、最近はもう少しビジネスライクな運営がよいと思っています。 例えば飲み会などで交流を図る方法はありますが、斎藤さんの事務所ではやっていません。 無論、相談されたら丁寧に答えていますが、あくまでもプロフェッショナルな人材の集合体と考えたいためです。 斎藤さんは、「働く場所に魅力があれば人が集まる。 ここの場合は先進的な取り組みをどんどん進めていくことだ」と言います。 そんな事務所でメンバーに期待しているのは、無論手続き業務だけではありません。 斎藤さんの考える「顧客の課題を解決する」「そのために、顧客と話して整理をして提案する」ことができる人を求めています。 そのような人材には当然報酬面でも手厚くしていくとおっしゃっていました。
これから続く皆さんに
これから司法書士を目指す後輩に一言とお願いすると、「資格は取らなくてもよいですよ」という意外な答えが返ってきました。これを言った時の斎藤さんの目は笑っていましたが、無論冗談ではありません。
斎藤さんが言いたかったのは、
・資格を取ることは手段であって目的ではない
・資格試験の結果得られるのは、試験に通る知識を持っているという能力認定 (例えばTOEICの様な)である
・試験で出る知識だけなら本やネット調べれば出てくる
・例えば不動産取引の数は減っているので書類作成業務も減る
・その為に多大な時間を使うのではなく、得た知識をコンサルタントとして「悩みを解決し」世の中に貢献することが大事である。 極論すれば資格なしでもこれはできる。
これは、いろいろな挫折や回り道をしながら今の事業を開拓してこられた斎藤さんならではの言葉ではないでしょうか。
最後に
斎藤さんが期待するような人材を育成すれば、当然、独立する力をつけて巣立っていく人もいます。 斎藤さんはそれは構わないと言います。 去る者は追わずというより斎藤さんの理想とする司法書士が輩出されて、世の中の人々の悩みが解決されていくことが、理想なのだそうです。 近い将来は、かつての明治維新の英傑を生み出した松下村塾のような存在になっていくかもしれません。
斎藤さんは月の内の三分の一は外に出ることにしているそうです。 国内や海外への旅行もインド、アジア、東欧や西欧、アメリカとじつに幅広く行かれています。 リモートワークの環境が整っているので、事務所を離れても仕事ができるという事はありますが、そうすることでフレッシュな考えがわいてくるという効果も十分にあります。 事務所にこもらず、事務所を発展させると共に、士業の繁栄にも貢献していく斎藤さんの今後の活動に大いに期待したいと思いました。
文:須藤和夫(中小企業診断士)/編集:志師塾「先生ビジネス百科」編集部