Last Updated on 更新日2019.11.4 by 44@jyuku
「社労士試験に合格した」だけでは社労士とは言えません。社会保険労務士法で定められている通り、社労士を名乗り、社労士として仕事をしていくには、社労士登録と都道府県社労士会への入会が必須になります。社労士登録しなければ、名刺に記載することもできません。せっかく難関試験に合格したのですから、登録まで一気にやってしまいたいものです。
ここでは、社労士試験合格後の方がまずやらないといけないこととして、登録、開業までの流れについてご紹介します。
この記事の目次
合格後~登録までの道のり
社労士は一度試験に合格すると一生モノです。弁護士や公認会計士などの士業と同様に、更新要件や有効期限はありません。したがって試験に合格してすぐに登録しなくてもOKです。極端な話、合格後10年たっても、20年たっても登録はできます。とはいえ、法律や制度改正が多い分野でもありますし、せっかく勉強した内容が陳腐化しないよう早いうちに登録することが望ましいでしょう。
実務経験が2年以上必要
登録にあたっては、実務経験が2年以上必要とされます。実務経験がある場合は、実務従事期間証明書に実務内容を記載して、事業主の証明をもらいます。実務経験として想定されている内容は以下の通りです。
・雇用保険、健康保険、厚生年金保険の被保険者資格取得・喪失届に関する事務
・健康保険、厚生年金保険の被保険者資格取得・喪失届に関する事務
・雇用保険被保険者離職証明書の作成
・労働保険の概算・確定保険料の申告・納付に関する事務
・就業規則(変更)届に関する事務
・時間外労働・休日労働に関する協定届の作成
・労働者名簿の調製
企業の人事・労務・総務部門で勤務経験のある方であれば、どれか一つでも当てはまりそうなものはないでしょうか?上記以外でも実務経験に該当するかどうかは、社労士会に問い合わせれば教えてもらえます。
なお実務経験は直近でなくても構いません。証明さえしてもらえるのなら辞めた会社でも大丈夫です。一度ご自身の職歴を確認してみましょう。
実務経験がない場合は事務講習を
ご自身の職歴のどこを探しても、実務経験に該当しそうなものがない場合は、「事務指定講習」を受ければ大丈夫です。合格通知から少し遅れて事務指定講習の受講案内が届きます。合格から年数のたっている方は、毎年11月に受講申込ができるので忘れないようにしましょう。
費用は75,600円、期間も2月~最大9月までと約半年に及ぶので、時間もお金もそれなりにかかります。
通信指導過程(2月~5月)
事務指定講習は、自宅でできる通信指導過程と、面接指導過程の2つに分かれています。通信指導過程では、被保険者資格取得届、保険関係成立届、報酬月額算定基礎届などの各種様式が50種類ほど送られてきます。課題内容に基づいて記入し、提出すると添削されて返ってきます。それぞれ記入例がしっかりあり、記入例の通りに書けばよいので、けっして難しい内容ではありません。すべて手書きなので手間はかかるものの、期間内で十分に対応できます。
面接指導過程(7月~9月 4日間)
「面接指導過程」は、東京・愛知・大阪・福岡の全国4会場で7月~9月に4日間開催され、1日でも欠席すれば修了とは認められません。すべて平日かつ終日4日間なので、会社員にとってはなかなかのハードルの高さです。比較的夏休みがとりやすい時期ではありますが、前年11月の申し込み時点で、翌年の夏休み計画について、十分に根回ししておくことをおすすめします。
「面接指導」とあるものの、内容は座学の講義です。100人くらいの大教室で、「労基・安衛法」「労災保険法」「雇用保険法」「労働保険徴収法」「健康保険法」「厚生年金法」「国民年金法」「年金裁定請求等の手続」の8科目を、各3時間ずつみっちり講義されます。
講師は現役の社労士の方で、多少は実務も交えた話をしてくれますが、基本は各法律のおさらいです。社労士試験合格者であれば当然知っている内容ばかりでしょう。ただし合格してから一度もテキストを開いていない、という方にとってはちょうど良い復習機会になるかもしれません。
面接課程修了時に修了証が交付され、これが登録への切符となります。
実務経験がないゆえの「事務指定講習」ですが、受けたからと言って実務に精通した気にはなれません。可能であればやはり実務経験2年以上で登録したほうが、断然お金・時間の節約になります。
繰り返しになりますが、ご自身の職歴を隅から隅まで探して、実務経験に該当しそうなものがないかよくよく確認してみましょう。
登録、社労士会への入会
都道府県社労士会へ
いよいよ登録です。登録にあたっては各都道府県の社労士会に入会することが必要になります。入会する社労士会は任意で選べるわけではなく、後述の登録区分によって事務所所在地(開業)か勤務先所在地(勤務)か自宅所在地(その他)の社労士会いずれかのみになります。
登録区分
登録区分は、「開業」、「勤務」、「その他」の3つがあります。違いは社労士の独占業務である労働保険や社会保険の手続き代行や就業規則などの帳簿作成ができるかどうかです。
「開業社会保険労務士」であればこれらの独占業務がすべてでき、「勤務社会保険労務士」であれば、勤務先の手続、書類作成のみできます。「その他社会保険労務士」はこのような独占業務はできません。
いきなり独立・開業する意思のない方であっても、まずは開業社会保険労務士として登録しなければ、独占業務の仕事は一切できなくなります。社労士会から仕事の斡旋も受けることができません。そうなると当然開業で登録すべし、となりますが開業登録はもっとも費用がかかる現実もあります。登録区分の変更は入会後も可能なので、お勤めの方はいったん「勤務」で登録し、稼げそうな自信がついてから、「開業」に切り替えることもありかもしれません。
とにかく高い登録費用
さて費用はいくらぐらいかかるのでしょうか。まず全国共通で、登録免許税30,000円(収入印紙)と登録手数料 30,000円の合計6万円がかかります。
さらに都道府県社労士会の入会金、会費等がかかりますが、こちらは各都道府県によってまちまちです。以下4都府県の費用を抜粋してみました。(価格はすべて2019年9月時点のものです。)
社労士会によってかなり開きがありますね。入会金が高いところ、年会費が高いところ、また会館維持のため「特別会費」を徴収する社労士会もあります。総じて言えることは、開業の方が高いということと、初年度はトータルで20万円前後かかるということです。2年目以降も年会費が5万~10万円くらいかかります。
なお、入会金が安い社労士会に入会して、後日入会金が高い社労士会に転職等で移籍した場合、入会金の差額を徴収されるようです。
政治連盟とは
さらに徴収されるお金はこれだけではありません。「社会保険労務士政治連盟」の年会費6,000が必要になります。
「社会保険労務士政治連盟」とは社労士の社会的・経済的地位の向上と社労士制度の発展をはかるために必要な政治活動を行う組織とされています。その性格からいって、加入は当然任意のはずですが、登録手続きと一緒に政治連盟の入会書類も渡されるため、断るのはなかなか勇気がいりそうです。また「政治連盟に加入しなければ社労士会から仕事を紹介してもらえない」といったウワサもまことしやかに囁かれています。(真偽のほどは定かではありません。)最初はとりあえず払っておいた方が無難かもしれません。
登録の手続き
社会保険労務士会名簿に登録できるタイミングは決まっていて、毎月1日(社労士会によっては15日付登録を実施しているところもあります。)です。そのため、それにあわせて毎月研修会や説明会を開催して、登録手続きを受付する社労士会が多いようです。登録を予定する社労士会に説明会等の日程を確認してみましょう。
また会費等の他に登録に必要な書類は以下の通りとなります。
1.社会保険労務士登録申請書
2.労働社会保険諸法令関係事務従事期間証明書または事務指定講習修了書
3.社会保険労務士試験合格証書の写
4.住民票1通
5.顔写真1枚
6.戸籍抄本1通(登録申請時の氏名が合格証・従事期間証明書・事務指定講習修了書と相違がある場合のみ必要)
登録が完了すると官報に名前が載ります。官報はネットでも見られるので、ぜひご自身の名前が載っているのを確認して、受験を志した日から今日までの苦労の道のりを振り返りつつ、晴れて社労士となった喜びをかみしめましょう。
開業へ
いよいよ社労士として活動開始です。いきなり独立開業しなくても、社労士法人に転職する、副業として始めるなど形はさまざまです。社会の流れが副業容認に大きく舵を切っている今、リスクを低減するためにもまずは副業として挑戦してみるのもありですね。
ただいずれの場合でも言えるのが、資格をとったからといって誰もそれ自体ではお金を払ってくれません。なぜあなたのサービスにお金を払うのか。この問いに対する答えを考え抜く必要があります。
なぜあなたのサービスにお金を払うのか。
ほかのサービスとの違いは何なのか。
自身を表すとがったキャッチコピーを考えてみましょう。誰にでもウケるキャッチコピーではなく、特定の誰かに刺さるキャッチコピーの方が効果的です。
働き方改革の影響もあり社労士の仕事は増えています。とはいえ当然誰もが成功できるわけではありません。準備をしっかりしたうえで、チャレンジするようにしましょう。
最後に
この記事では、社労士の合格後から登録までの流れについて主にお伝えしました。資格は取っただけではなく、活用して初めてモノになったと言えます。先生ビジネスはけっして簡単にできるものではありませんが、せっかく得た知識をやはり有効に役立てたいですね。
先生ビジネスのノウハウについては「先生ビジネス百科」でもご紹介しています。よければそちらもご参照ください。
クレジット:
文:佐藤智美(社会保険労務士/中小企業診断士)/編集:志師塾「先生ビジネス百科」編集部