4つの士業資格ホルダー~貝井英則~

Last Updated on 更新日2018.7.3 by

公認会計士であるばかりでなく、税理士、中小企業診断士、社会保険労務士、証券アナリスト、システム監査技術者、応用情報技術者、ファイナンシャルプランナー、TOEIC900点など、数多くの難関資格をもつ貝井英則さん。2017年10月には、中小企業強化法に基づく経営革新等認定支援機関の認定も受けられた「貝井経営会計事務所」を経営し、着実にその事業の幅を広げられています。今回は、独立開業に至るまでのご経歴や独立後の困難の克服、将来にわたるビジョンについて、取材いたしました。

「士業」より「経営者のお困りごとを解消するサービス業」

一般的な士業事務所が主業務とする確定申告や社会保険事務は行わず、会社の経営管理体制整備の支援に特化されています。特に、小規模M&Aや事業承継にフォーカスしているところに、貝井さんの緻密な事務所経営の差別化戦略が垣間見えます。まずは、コンサルティングとしての姿勢について、お考えをお聞かせ願えますでしょうか?

貝井:私が、これまでにお会いした中小規模の顧客の多くは、これまでのコンサルティング会社に不満を持っていました。例えば、大手コンサルティング会社によくありがちな責任者の顔の見えない、経験の乏しい若手のコンサルタントが派遣されたり、「月次決算」は会計士・税理士、「経営計画」は中小企業診断士、「資金繰り」は財務コンサルタントといった専門性の分業であったり、数字ばかりを重視するあまりアウトプットが抽象的で、その企業の強みや経営者の想いを重視しないことなどです。

私はそこに着目し、自身が実務経験豊富な複数の資格ホルダーであることを活かし、ワンストップできめ細かいコンサルティングを提供しています。そして、顧客の経営理念を重視し、数字一辺倒にとらわれない支援をしています。このような大手とは一線を画すサービスや、経営者に寄り添う姿勢が評価され、多くの顧客の支持を得ているのだと思います。

-では、次に小規模M&A事業についてお聞かせ願えますでしょうか?

貝井:最近は親族外のM&A案件が増えてきているのです。よく、M&Aと聞くと大手大企業同士のニュースが誌面を飾ります。しかし、当事務所に依頼される案件では、売上高1億円、80歳の社長にパート従業員7名の食品卸売業といった、とても小規模なよくある町の中小企業の事例が非常に多いのです。こうした企業は、大手・中堅のM&A仲介会社が手掛けることがなく、また、依頼者もどのようにするのか途方に暮れているケースも多いのです。

そうした案件に、一つひとつ丁寧に真摯に寄り添い、信頼と実績を得られるよう心掛けています。

セミナー

「待つばかりでない」顧客獲得の手法

-顧客となる会社とはどのように接点を持つのでしょうか?

貝井:信用金庫から事業承継について専門家派遣の要請を受け、私を気に入ってもらえたことで、引き続きクライアントとして継続契約をされる方などがその一例です。また、師事していたM&Aの専門家はじめ、今まで広げていった人脈からのご紹介も重要なチャネルの一つになります。

また、紹介のようなプル型ばかりでなく、プッシュ型の営業もします。その手法は、商工リサーチ等のデータベースを活用し、自分の経験から“こういうところはニーズがあるのではないか?”と予測をたて、「売却したいという会社があるのですが、興味ないですか?」と直接電話を掛けるというものです。こうしたテレアポも工夫次第で、成功率が格段に高まります。それは、まず手紙を出して、私が公認会計士であることを相手に認知をしていただきます。さすがに、単にM&Aのアドバイザーというよりは、公認会計士の方が経営者に安心感を与え、アポイントにつながる確率も高くなり、その後の電話でのやり取りも比較的スムーズにいきます。

M&Aの認知は広がっていますが、まだ経営者自身が、「会社を乗っ取られるのではないか」といった誤解や、廃業することの困難な側面をきちんと理解しているとはいいがたい状況です。こうした誤解を一つひとつ丁寧に解消していくことが今後は大切であると考えています。

現在のM&A市場については、買収をしたい側の企業は数多く存在しており、売り手が少ない買い手市場の状況です。国内市場全体が縮小の一途をたどっていて、企業は自力で拡大しようにも、海外展開かM&Aをするぐらいしか選択肢が残っていないのが現実です。感度の高い経営者であれば、M&Aを活用した事業拡大が手段の一つとなり、売りたい方は比較的に容易に買い手が見つかる環境です。このため、なおさら経営者の誤解を解消して、売り手を掘り起こすことがどの様に売り手を掘り起こすかがこれから非常に重要になってくるのです。

面談

士業資格の取得から独立に至るまでの道のり

-貝井さんは1978年奈良県に生まれ、京都大学総合人間学部で心理学を専攻されました。ご経歴について、お聞かせ願えますでしょうか?

貝井:在学中は、臨床心理士(カウンセラー)の夢がありましたが、経済的自立の難しさから公認会計士を目指すことに方針転換しました。その理由は、会計監査を通じてさまざまな会社を訪問しながらビジネスや会社の仕組みが学べ、将来の独立も選択できるからでした。入社内定した企業がありましたが、それを辞退し公認会計士の勉強を始め、大学卒業後に合格しました。

その後、会計士の⼤⼿監査法⼈に⼊所し、上場企業・外資系企業・上場準備企業の監査業務に従事するとともに、M&Aのデューデリジェンス、過年度財務報告修正プロジェクト、J-SOX対応・⽀援、IFRSのコンバージェンス業務などに従事しました。順調にみえる会社員生活でしたが、外部から会計数値をチェックするだけでは、次第に物⾜りなく感じるようになりました。

会計には過去の経営数値を確定させ、経営の客観的状況を明らかにするという意味があります。しかし、本当に重要なのは「赤字をどうリカバーするのか」「利益をどのように増やすのか」「対策をどう講じるのか」なのです。そして、自身の会計スキルを活かし、「会社の内部から会社経営に貢献したい」という思いが次第に強まり、次の事業会社へのキャリアチェンジを決意したのです。

-経営の分野に進まれたのですね。

貝井:はい。経営管理業務を実際に経験でき、海外での経験も得られることを考え、次の転職先は大手電機メーカーを選択しました。一般的に、会計士が転職する部署として多い、経理部門や内部監査部門ではなく、海外拠点のCFO(最高財務責任者)になることを⽬指し、海外事業本部という、あえてビジネスの現場に近い海外事業部門を選択しました。そちらでは海外⼦会社管理に従事しながら、経理、税務、財務、⼈事、法務、経営企画、ITなど、理想通り、幅広い経営管理業務全般の経験を積むことができました。

海外子会社の設立を含め、会社で生じるあらゆる経営管理業務を経験しました。会計監査時代の「監査のための会計」ではなく、「経営のための会計」が求められ、改めて会計は目的ではなく、手段であることを認識しました。

しかし、その会社は数千億円の⾚字を2年連続で計上する経営難に陥ってしまいました。有効な策を打てずにいる経営陣に失望すると同時に、「勝ち組」と⾔われた⼤企業が、⼀瞬にして倒産⼨前に追いやられる過程を⽬の当たりにしたのです。

-さらなる転身を図られた?

貝井:はい、環境事業のベンチャー企業への転職をしました。そのベンチャー企業では、株式上場を⾒据えた経営管理業務に従事しました。⼦会社が3社から10社超にグループが拡⼤する中で、経営計画策定、連結決算、上場申請資料作成、経営者へのレポート作成、資⾦繰り計画、⾦融機関との交渉、補助⾦(5000万円)獲得、システム導入、各種規定の整備などの会社の経営管理体制構築を前職より幅広く主導しました。

この会社での印象的な出来事は、企業買収後の事業統合(PMI)を担当したことです。買収した会社は、小規模企業であったため、経営計画はおろか月次決算すらないという、まさに典型的な中小企業でした。当初は途方に暮れたこともありましたが、経営計画や月次決算、資金繰り表、諸規定の整備などのPDCAサイクルを着実に回すにつれ、経営も徐々に安定し、業績も向上していきました。経営管理の力、大切さを、身をもって知った経験でした。

こうして、経営管理の実務実績を積み、理論も習得したことで、大きな自信につながりました。上場のプロジェクトがひと段落したのを機に、改めて今後の人生を考えたときに、これからはこの培ったスキル・経験を活かしてより多くの企業の発展に寄与したいと思いが募り、独立を決意したのです。

セミナー2

打ち砕かれた思いと得られた気づき

-独立を決意されて、「貝井経営会計事務所」を構えられました。これだけ多くの資格と幅広いご経験をお持ちですから、事業は順調に進んでいくように思いますが、開業当時は、いかがだったのでしょうか?

貝井:開業したものの、独立当初は仕事のあてはありませんでした。また、営業の経験もなく、仕事を獲得するノウハウやスキルも不足していました。このため、当初1年間は研修や勉強会でコンサルティングスキルを向上させ、同時に人脈・ネットワークを構築しようと計画し、各士業の協会や商工会議所のイベントにも積極的に参加しました。さらには、営業能力を高められるという思いから、パワーポイントやプレゼンテーション、ボイストレーニングのセミナーにも参加したのです。

ただ、こうした思いとは裏腹の結果でした。「スキルを磨いて仕事に繋げたい」という想いとは裏腹に、なかなか仕事は増えませんでした。「これだけの資格があれば、何とかなる。」という傲りがあったのかもしれません。独立当初のタカをくくっていた考えは、現実はすぐに打ち砕かれることとなったのです。なかなか、仕事にはつながりませんでした。

「ターゲットである経営者が、経営管理体制の整備が必要であることを認識している場合が少ない」というマーケットであったこと、「なんでもできると言われても、何を頼んだらいいのかわかりにくい」という、提供サービスの具体性が乏しく、顧客に届いていないことが理由とわかりました。つまりニーズに刺さっていなかったということになります。しかし、その時は事業承継をメインに仕事をしていくとは、考えてもいませんでした。

-志師塾の門をたたかれたのは、こうした状況を打開するためでもあったと思うのですが、ご自分の気づきを得られたお話などありましたら、お聞かせください。

貝井:志師塾の学びの中で印象的なこととして、次のような歯医者の事例がありました。歯医者自身は、自分は「腕」があると思っています。しかしその「腕」はそのままでは全く伝わらない。患者すなわち顧客からは、むしろ、立地や営業時間、ホームページなどが重要になってきます。「腕」は顧客さえつければ、後からでもついてきます。

たくさんやれば、ついてきます。まずは、その顧客をどのようにつかむか、どのように興味をもってもらえるか、顧客の悩みがどこかを考えてそこにスコープをあてていくことが重要です。いかに自分が、これだけ管理の仕事をしてきました、資格をもっていたとしても、それがお客様の悩みや課題を的確に捉えて、それを解決するものでないと、仕事に繋がらないことに改めて気づかされたのです。

-なるほど。提供する側と提供される側の視点が違うということですね。事業領域についてはいかがでしょうか?

貝井:「事業承継」を考えるきっかけになったエピソードがあります。経営者や他の士業が集まる会合で、このように話しました。「事業承継といえば、相続税をいかに安くとか株式の承継などに注目しがちです。でも後継者が引き継いだ会社を倒産させては意味がありません。昔と違い今は、経済環境はじめ大きく違ってきていて、悠長な姿勢が通用せず、会社経営に重大な支障が生じかねません。

事業承継にあたってPDCAサイクルを導入して経営を見える化し、だれでも組織的な経営ができる体制を構築することにより、円滑に経営を承継し、30年後も継続する会社の仕組みと人を作るお手伝いをさせていただきます。」
そう話をすると参加者の食いつきというか、目の色がかわったのです。これまで打ち出していた「経営管理支援」と内容は変わらないのに、「だれに、なにを、どのように」販売するかによって結果は全く変わってくることを実感したのです。この経験を通じて、また、志師塾で得たノウハウを活かし、今の経営理念である「ワンストップの経営管理支援」が形作られていきました。

面談

こうありたいと願うこと

-これからの「貝井経営会計事務所」の展開については、どの様にお考えでしょうか?

貝井: これまで「経営管理体制整備支援」という漠然としたサービスを「増益を継続し、資金繰りに困らない」会社のしくみとして、わかりやすくリメークしました。同時に、①実務経験豊富な専⾨家であること。②ワンストップでの総合的な⽀援体制であること。③経営者の「思い」や「経営理念」を重視していること。の3点を独自の差別化要素としてアピールしてきました。事業承継についても、経営の仕組みだけつくったとしても、それを運用できる人材がいなくては意味がありません。後継者にPDCAサイクルに基づく経営の回し方を、マンツーマンかつオーダーメイドでマスターしていただく、「後継ぎ経営家庭教師サービス」の提供を通じて、経営者に寄り添う姿勢を貫いていきます。

そして、今はまずM&A事業を軌道に乗せたいと思っています。それが軌道に乗って来れば、結果として中小企業が存続して、日本も元気になっていくだろうと思っているので、そこを広げて自分の力もつけていきたいというのが、正直な自分の今の考えになります。

-本日は大変貴重なお話をありがとうございました。
力強くご自身のビジョンを話された、貝井英則さん。これからの「貝井経営会計事務所」にますます期待が持てる取材となりました。

文:屋代 勝幸(中小企業診断士)/編集:志師塾「先生ビジネス百科」編集部

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