Last Updated on 更新日2019.10.29 by
2019年の『中小企業白書』によると、中小企業の新規開業率は2000年以降緩やかな増加傾向にあり、独立・起業を志す人が増えています。その中でもコンサルタントは比較的起業しやすい業種として人気を博しており、近年では開業率も伸びています。しかしながら、独立・起業が容易ということは、裏を返すと競合が多く競争が激しい業種であるとも言えます。したがって、コンサルタントとして独立・起業する前には入念に準備をしておくことが必要です。そこで今回の記事では、コンサルタントとして独立・起業を目指す方に向けて、事前に準備しておくべきことを紹介していきます。
この記事の目次
コンサルタントは独立・起業しやすい業種
コンサルタントは比較的、独立・起業がしやすい業種だと言われています。なぜなら、コンサルタントという業種は、企業の経営資源である「ヒト・モノ・カネ」に対して多額の投資が不要だからです。まずはその詳細について見ていきましょう。
ヒト:多額の「人件費」が不要
コンサルタント業を営むに当たって、多額の人件費が不要というメリットがあります。製造業や飲食業といった業種であれば、社員やパートの人件費が必要となる場合が多く、採用コストや教育コストも含めて「ヒト」に関わるコストがどうしても必要になってしまいます。しかしながら、コンサルタント業は社員を雇わずとも社長1人でも十分に経営していくことが可能です。
モノ:多額の「設備投資」が不要
コンサルタント業は設備投資費用が少なく済む業種だと言えます。当然ですが、工場や店舗、機械といった設備に資金を投じる必要がありません。最低限、パソコン1台と携帯電話さえあれば事業を始めることができます。事務所が必要であれば、都市部を中心に増加しているシェアオフィスなどを利用するのもひとつの手段でしょう。
カネ:多額の「運転資金」が不要
製造業や卸売業であれば、材料や商品の仕入れが必要となり、どうしてもある程度の運転資金が必要となります。しかしながらコンサルタント業はサービス業のため、仕入れが必要ありません。最低限生活ができるだけの収入さえ確保できれば、日々の資金繰りは不要と言えるでしょう。
このようにコンサルタント業は資金面で独立・起業が比較的容易な業種だと言えます。また、特別な資格がなくとも「コンサルタント」を名乗ることは可能であり、過去の経験・人脈が活かしやすい業種でもあります。これらの理由から、コンサルタントとしての独立・起業のハードルは低いと言えるでしょう。
コンサルタントとして独立・起業前する前に準備しておくべきこと
しかし、起業へのハードルが低いということは、競合が多いことの裏返しでもあります。激しい競争環境の中で安定した経営を実現するために起業前に準備しておくべきことは何でしょうか。
自身の経験・知識の棚卸し
コンサルタントとして仕事を受注し、成果を上げていくためには、自身の経験や知識、スキルを価値に変換して顧客に提供できることが必要不可欠です。そのためには、まず「過去の経験・知識からどのような価値が提供できるのか」を洗い出すことが必要となります。過去の仕事や学習から得た経験・知識の中で、何を顧客に提供できるかを整理してみましょう。専門分野以外にも、自身の「強み」「弱み」を整理しておくことをおすすめします。
この過程で、不足している経験や知識があれば補強しておきましょう。その際、インプットとアウトプットの両輪で鍛えることを意識してください。座学だけでなく、得た知識を活用・実践する場を持つことで、学習効果はより強化されます。例えば、無料でのセミナー開催やコンサルティングの実践などを交えることによって、知識は確固たるものとなります。
自身の人脈の棚卸し
独立して仕事をしていくに当たって、これまで築いた人脈も非常に重要な要素となります。特に、初仕事を受注する際には、いきなり飛び込み営業で顧客を見つけることは非常に困難だと言えます。これまで築いた人脈を活用し、顧客を紹介してもらうなどして、ひとつずつ実績を積み上げていくことが成功への最短ルートです。これまで築いた人脈は、独立前に一度整理しておきましょう。開業の際には、挨拶状などを送付することも顧客開拓に効果的です。もし開業前に人脈が不足していると感じられた方は、無料セミナーの開催や交流会への参加などを通して、見込み顧客との接点を広げるようにしておきましょう。
専門分野の確立
自身の経験・知識・人脈について一通り棚卸しを実施した後は、いよいよコンサルタントとしての専門分野・領域を確立させるフェーズに入りましょう。コンサルタントと聞くと「経営コンサルタント」として、経営者へ助言する職業をイメージする人が一般的だと思いますが、近年では多種多様なコンサルタントが活躍しています。
例えば、経営コンサルタントの中でも「人事」「IT」「生産性向上」などの特定分野に特化したコンサルタントや、ユニークなものでは、「商店街の活性化」「職場の風土改善」「事業承継」に特化したコンサルタントも存在します。さらに、個人を対象としたコンサルタントとしては、「片付け」コンサル、「就活」コンサル、「家計改善」コンサルなど、世間のニーズに合わせて様々なコンサルタントが活躍しています。
このように「コンサルタント」の定義を拡大して考えることによって、一口にコンサルタント業と言っても、様々な分野で事業を展開することが可能です。独立・起業前に必ず自身の専門分野を確立しておきましょう。
生活防衛資金の準備
事業の準備に加えて、生活面の準備も整えておくことが必要です。コンサルタントとして起業したとしても、残念ながら最初から十分に食べられるだけの仕事を得られる人は少数です。たとえ収入が無かったとしても、しばらくは生活していけるだけのお金は貯蓄しておきましょう。このような資金は「生活防衛資金」と呼ばれます。目安としては無収入であったとしても2年間は生活できるだけの資金を貯めておくと良いでしょう。生活防衛資金があることによって、起業初期に仕事が得られなかった場合の心理的不安が軽減されます。起業してから、思い切り仕事に集中するためにも、最低限の生活防衛資金は用意しておきましょう。
コンサルタントとして独立・起業する際のマーケティング戦略
ここまで基本的な準備事項について述べてきましたが、ここからは起業の際に準備しておくべきマーケティング戦略について紹介していきます。
まずは「誰に・なにを・どのように」売るのか、という事業ドメインを整理しておくことが必要です。ドメインをきちんと策定することで、競合との差別化が可能となり、軸のぶれない経営が可能になります。コンサルタントとしての独立を目指す読者の方々は、これまでの経験や確率した専門分野から、提供したいサービスがぼんやりと浮かんでいることと思います。それらを具現化し、戦略に落とし込んでいきましょう。
誰に(ターゲット顧客の設定)
まずは「誰に」というWhoの部分から考えていきましょう。「自分が価値を提供すべきターゲット顧客は誰なのか」を考えます。ターゲットとする顧客は大企業なのか中小企業なのか、製造業なのかIT企業なのか、それとも個人なのか。価値を提供すべき想定ターゲット顧客を設定しましょう。ターゲット顧客を明確に設定しておくことで効率的なマーケティングが可能となります。
なにを(商品・サービスの策定)
続いて「なにを」というWhatの部分、すなわち提供するサービスについて検討しましょう。経営戦略全般に対するコンサルティングサービスを提供するのか、IT活用による業務改善のコンサルティングを行うのか、経営者向けのセミナーを提供するのか、など自社としてどのような価値を提供するのかを決めましょう。
その際、「差別化」という視点を特に重視してください。他社と同じようなサービスしか提供できなければ、最終的には価格競争に巻き込まれてしまいます。過去の経験やスキルを棚卸しし、自社だからこそ提供できるサービスとして成立しているかどうかを確認しておきましょう。
どのように(料金・プロモーションの検討)
「誰に」「なにを」提供するかが決まれば、最後にそのサービスを「どのように」ターゲット顧客に届けるのかを検討しましょう。「どのように」というHowの部分は、料金やプロモーション手法の検討が該当します。
まずは自社のサービスやセミナーをいくらで提供するのかという料金体系を策定しましょう。月額制の顧問契約なのか、相談1回ごとに課金するのかといった料金メニューを用意しておくことが必要です。これにより、商品やサービスをどれだけ販売することができれば、いくらの収益になるかということが分かるようになり、予算や利益計画を立案することが可能となります。
また、プロモーションに関しては、自社サービスをどのように販促していくのかを検討します。Webサイトやブログ、SNSを利用するのか、それとも直接営業をするのか、紹介で顧客を獲得するのか、など売り方を決めておくことが必要です。
これらの事前準備から基本的なマーケティング戦略が浮かび上がったはずです。戦略策定は一度固めたら終わりではなく、顧客の反応や競合の動向を見ながら常にブラッシュアップしていきましょう。
フレームワークを活用したマーケティング戦略の具現化
「誰に・なにを・どのように」というマーケティング戦略の骨子が固まれば、コンサルタントらしくフレームワークで整理して考えることをおすすめします。
まずは4P分析を活用しながら、自社のマーケティング戦略を整理してみましょう。4P分析とは、マーケティング・ミックスにおける主な要素である製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)の頭文字を取ったものです。これら4つの視点から自社サービスを捉えることにより、効率的な事業戦略の立案が可能となります。整理・分析の際には4つのPが連携・連動したものとなっていることを意識するようにしましょう。
まとめ
以上、コンサルタントとして独立・起業する際に準備しておくべきことをまとめてみました。経験・知識・人脈の棚卸しを実施して自社サービスを構想した後は、「誰に・なにを・どのように」届けるかというマーケティング戦略を構築し、効率的な経営を実践していきましょう。読者のみなさんがコンサルタントとして独立・起業され、活躍されることを祈っています。
文:種村基(中小企業診断士)/編集:志師塾「ビジネス百科」編集