Last Updated on 更新日2018.2.26 by
元CAがこんな職業に就いていました。
それは、企業研修等を手掛ける接遇講師です。
接遇のプロは一つ一つの美しい所作であったり、話し方であったり、それらは表面上のことですが、全ては接する相手の気持ちに常に気を配っていることから「マナー」として表れているものなのです。最初から全てを実践することは難しいかもしれませんが、誰にでも意識して心がけ、そして実践してゆけばできるようになることです。それを「MOTトレーニング」というプログラムとして提供しているのです。
今回は、「接遇のプロ」を育成する高瀬晴子さんに、お仕事について伺いました。現在の「MOTトレーニング」に至るまでにどのような経緯があったのでしょうか?
この記事の目次
現在のお仕事内容について教えてください。
——接遇講師はどのようなお仕事でしょうか?
思いをカタチにして届けることの喜びをお伝えする
私は、主に経営者の方の理念を接遇面でも実現してゆくサポート役で、接遇講師として企業に出向いています。
従業員の方に「どのようにしたらお客様に信頼していただけるのか」ということを、(第一印象の)印象面から始まり信頼関係を構築するコミュニケーションまで、接遇でもプロであることの大切さをお伝えしています。
また企業の理念・ビジョンも共有することを大切にしています。同じゴールに向かうチームを創る意識があると、チームとしても個人としても伸びます。接遇のプロを育成することについて、また、さらに高い顧客満足を実現するためのコンサルティングも実施しています。
——接遇講師はそのようなお仕事をされるんですね。これまでにどのような企業をご担当されましたか?
例えば、Volkewagen Japanでは、全国のフォルクスワーゲンのディーラーの新入社員を対象とした「ブランドを表すビジネスマナー&コミュニケーション研修」を3年間担当致しました。現在は、クリニック等の医療機関で接遇基礎からクレーム応対、また接遇リーダー育成等の研修のご依頼をいただいていますね。
高瀬さんの強みである「MOTトレーニング」について
——具体的に研修はどういったことを教えるのでしょうか?
従業員の意識から、表面に見える接遇・マナーまで一貫性をもたせることが大切
1980年代、経営破綻に瀕したスカンジナビア航空の社長に就任し、経営をV字回復させることに成功したヤン・カールソン氏が提唱したMOTという考えに共鳴して「MOTトレーニング」を行っています。彼は徹底した現場主義を唱え組織のあり方から変えましたが、現場でお客様と対面する一人ひとりのスタッフが会社の顔である、という意識は接遇研修で欠かせないポイントです。
Moments of Truthの略で、日本では「真実の瞬間」と訳されています。一瞬、お客様は現場での従業員のわずかな応対時間に、企業全体のイメージを決めます。すべての従業員が会社の顔である。という考えです。お客様の信頼を得るためには、全てのスタッフが接遇面でもプロ意識を持つことが重要であると考えています。
✓個々で接遇にバラつきがあるが、どのように指導したら良いかわからない
✓ベテランやバイトといった年功序列の風土が染みついている
✓チームワークが良くない、情報共有がしっかりできていない
これらに当てはまる場合は、すぐにMOTトレーニングをお薦めしたいですね。
まず、「自分は誰のために、何をしているのか」ということを全ての従業員が把握できていることが重要です。たとえお客様と関わることが少ない専門職であっても、お客様と関わる短い瞬間に明るい笑顔で爽やかな挨拶をするだけでも、お客様の信頼感・安心感は高まります。
そのように、どのような職種であっても、心の伝わるお客様応対をしてゆくことが、企業価値を高めることができるという気づきは、スタッフの使命感が高まることにもつながります。
また、電話応対の際、全てのスタッフがお客様のご期待や信頼を損なわないような応対ができているかどうか。意外とできていなかったりするのです。お客様にとっては、対応してくれた人イコールその企業の人です。誰が電話応対しても企業イメージに合ったサービスを提供できることが大切なのです。
既にスタッフの心にある、お客様への感謝と思いやりの気持ちが、声のみの応対でもきちんとお伝えする。伝わるためには、敬語や言葉遣い、話す間合いやテンポ、声のトーンなどを意識する必要があります。ワークを取り入れながらブラッシュアップを図ります。
——MOTトレーニングで、従業員の意識を内側から変えていくことが出来るんですね。
他には研修で意識されていることはありますか?
企業ごとに、独自の期待がある、ということもとても重要です。それぞれのブランドイメージとでも言えるでしょうか。
例えば、先程述べたフォルクスワーゲンでは、私が研修を担当した頃には、「フレンドリー」というキーワードを大切にしていました。リッツカールトンやディズニーランドは有名ですね。「紳士淑女をおもてなしする私たちもまた、紳士淑女です」「ハピネス」などです。お客様に喜んでいただきたい、社会に貢献する、といった理念も具体的な提供方法は企業によって異なります。ですから、実際の研修に入る前に必ず経営者が実現したい会社像をお伺いします。
そして、企業ブランドのイメージに合わせた接遇研修を行います。
——たしかに、それぞれの企業ごとに合わせた指導の方が効果的ですね。
そうですね。また、お客様によってニーズが異なる、ということもお伝えしています。例えばカーディーラーでしたら、車好きの方に「車とは?」と一から説明したら「そんなことは知っている」とつまらなく感じてしまいますよね。
一方、初めて車をお買いになる方に、エンジンの性能など、専門用語を並べて、詳細なスペック(機能性)の説明をしたら、どうでしょうか?それはお客様が求めていることでしょうか?
常にお客様が何をお求めになっているのかという「顧客視点」をお伝えしています。
——それぞれの企業でも共通している点は、そこなんですね。現在はどういった指導をされているんですか?
現在では、医療機関からのご依頼を多くいただいております。
患者さんが手を怪我して、来院されたとしますよね。そこで病院の役割はもちろんお怪我を治療することです。
ですが、さらに、その病院の業務が適切・迅速で、かつ応対も良く、院内の環境も居心地も良かったら… 安心できますよね?
居心地の良さはスタッフの応対だけでなく、空間も含まれます。その空間が快適であるということも重要な要素です。わたしはスタッフが皆で話し合い創意工夫して五感全てにわたって居心地の良く、ブランドイメージの伝わる空間づくりをしてゆけるように指導育成しています。
どこか具合の悪い時には、ささやかなことでも、いつも以上に勇気付けられたり、逆にとても傷ついたりしやすくなっていますよね。いらっしゃる患者様が「来て良かった」と安心して、笑顔で帰れるような病院やクリニックが増えていくと嬉しいですね。そのために、貢献できればとても嬉しく思います。
具体的にはスタッフに、ご自身の「表情」や「言葉がけについて、より意識を持っていただいています。小さな心がけで患者様に伝わる印象が大きく変わってくる、ということをお伝えしています。接遇や顧客満足、患者様満足には、これで良いということはなく、基本的なことができるようになればなるほど、さらに高みを目指したくなっていかれます。
院長先生や先輩従業員も同時に研修を受講していただくことで、共通の目的意識の再確認ができます。それだけではなく、次に後輩に教える際に、今までよりもっと良い教え方が出来るようになるのです。
——なるほど…。医療機関にはその雰囲気にあった指導があるんですね。今まで車業界から医療機関まで実に多様なところでご指導なさって来たと思います。これまで担当されてきた機関で一番始め特に、荒んでいたところはありましたか?
いえ、今までに元々労働環境が荒んでいた企業というのはあまりなかったですね。しかし、私が以前登録講師として、手伝わせて頂いた企業の中には、人間関係等に疲れ果てているところはありましたね。
そういうときは、研修時に「みなさんはなぜこの仕事を選ばれたのでしょうか」というそもそもの動機を聞いていきます。
また、許可を得て、個別面談をすることもあります。そこでスタッフの思いを聞いていくのです。その中には悲鳴のようなものあったり・・・
企業の仕組みや、こじれた人間関係を一瞬で変えることは出来なくても、個々のスタッフが、意識や捉え方を変えることで、できることはあると思うのです。
ある程度、期間をいただき、定期的に継続して研修に入れる場合には、この様に個別面談や、グループワークも入れていき、自ら考え行動していく個人とチームの育成を実施しています。
そもそもなぜ、接遇講師を始めようと思ったのですか?
——ここまで、高瀬さんの独自の研修について伺ってきました。何故、そのようなスタイルの研修を実施するようになったのでしょうか?
私は接遇講師としては8年ですが、実は、講師職を始めて20年になります。もともとは、アロマセラピーを教えていました。
アロマセラピーを用いたセルフケアを、個人や団体で指導していたのです。そんな中で、企業でストレスマネジメントの話をして欲しいというお声がかかり、行ってみると接遇研修も同時開催でした。その後、接客業と講師の経験があったことを認められて、接遇講師への流れが自然とできていた感じです。
最初は他の先生が担当している新入社員教育のマナー講座等を拝見させて頂きました。そこで社員の方々がキラキラと変わっていくのを見ました。「ああ、こんな誰かに対して影響を与えられる仕事ってあるんだ…。」と嬉しくなりましたね。
——「教えること」の繋がりきっかけで、現在のご職業である接遇講師をされているんですね。。アロマセラピーと接遇のお仕事で何か変わった点はありますか?
航空会社では一緒に働く仲間は女性。アロマセラピーでの生徒さんも女性。また講師としてのアロマセラピーは1対1から少人数のやりとりでしたが、企業研修では男性が多かったり、多人数であったり、と対象が大きく変わりましたね。
後は、自分自身も経営者となって、学んだこともたくさんあります。ですので、経営者の方の思いと従業員の方の思いのどちらも叶えていけることは大きな喜びとなっています。また思いがあってもそれが伝わらないともったいない。思いをカタチにして届ける表現方法をプロの視点からお伝えしていますね。
人が人に対して安心感・信頼感を抱くには原則があるんです。これは誰にでも出来ることです。でも、それを意識化していないことが多いと感じます。元々その人に備わっている思いやりやおもてなしの心と接客の型に「どのようにしたら伝わるか」ということを添えて接遇でもプロを目指す。目指したい理想への一歩を踏み出すちょっとした後押しをする。それが私の役目です。
最後に、このページをご覧の皆さんにメッセージをお願いします。
私は、「お客様」と一括りにしないことをお伝えしています。お一人お一人のお客様、患者様、という意識。辛い思いを抱えて、病院やクリニックに来院される患者さんが、安心して通いたいと思える雰囲気を、院長とスタッフが一丸となって創っていくことをお手伝いしたいですね。
総じて「接遇」「おもてなし」「ホスピタリティ」というと、何か特別な、飛びぬけた、感動的な接遇応対をする、という感がありますが、実はそうではなくて、不安や不快感を招かないようなごく基本的なことをひとつひとつ丁寧にやることが大切です。お一人おひとりの患者様、お客様との距離感や居心地の良さを大切にする接遇をチーム全体で目指してゆく、というのが理想ですね。
また2020年は東京オリンピックの年で、より日本人の海外のお客様に対する接遇が問われることになるでしょう。接遇の現場では、語学への苦手意識から外国人への接遇応対から逃げ腰になっているスタッフもいらっしゃいます。
語学以外の部分、つまり、相手に喜んでいただきたい気持ち、「感謝と思いやり」を伝えるためにできることは、流暢な外国語を話せることだけではありません。語学力はそのままでも、十分に喜んでいただけることがあります。その部分に自信を持てるようなマインドセットが必要だと思いますね。そういったこともお伝えしています。
まとめ
これからの時代、お客様応対力に限らず、人間関係構築に大切なコミュニケーション力を磨くことが、人材育成の上で肝となります。
「どうしたら顧客満足度を高めることができるのか」という悩みを持っていたり、「全員が責任感のある状態に持っていきたい」と思っていたりした場合は、ぜひ高瀬さんにご依頼をされてみてはいかがでしょうか。
元CAであり、現在も国際イベントで海外VIP応対の指名依頼を受け稼働を続けている接遇のプロは、それぞれの企業・医療機関のニーズに応じて人材育成研修を手掛けています。また高瀬さんの特色であるMOTトレーニングは、よりプロ意識の高い人材を創出し続けています。みなさんも「接遇」の奥深さに触れてみてはいかがでしょうか?