Last Updated on 更新日2019.11.5 by 44@jyuku
ある日の午前中、横浜市内の某会議室にウクレレの音が響いていました。
ウクレレの演奏の主は「ウクレレで笑顔サークル」のメンバーのみなさん。40代~70代の男女十数人が演奏しています。ほとんどのメンバーがウクレレを始めて数か月という初心者です。
講師の松浪芳之(まつなみよしゆき)さんの掛け声にあわせて拍をとって弾いたり、分からないところを教えあったりして、わいわい楽しそうにウクレレを弾いています。その演奏は初心者とは思えないほどで、みんなで楽しみながら上達しているのが良く分かります。
「ウクレレで笑顔サークル」は、音楽に挫折した方々に音楽(ウクレレ)によって人が繫がる喜びをサークル形式で提供する「コミュニティービジネス」です。現在、高校生から80代まで幅広い年代の約130人が、15つのサークルでウクレレを楽しく学んでいます。
「ウクレレで笑顔サークル」を主宰する松浪さんは、45歳の時にたまたま出会ったウクレレにはまり、サークルを主宰するうちに「本気でやったらどうなるだろう」と考え、2015年、59歳の時に独立しました。独立後も補助金を獲得したり、複数のビジネスコンテストで入賞するなどビジネスプランは様々なところで評価されており、横浜市、川崎市、町田市を中心に日々活躍しています。
この記事の目次
ウクレレとの出会い
大手デベロッパーに勤務し、日本各地で働いていた松浪さんは、もともとギター好きでした。しかし、家で弾いていると、「うるさい!」と妻がいい顔をしなかったため、横浜市内にある近所の公園でギターを弾いていました。すると、たまたま見知らぬ男性に近くの公民館で開催されているウクレレサークルに誘われたそうです。
顔を出すと、年配の女性が楽しそうにウクレレを弾いていました。その様子を見て、自分もできるかもしれないと思い、早速ウクレレを購入して練習を始めました。音が大きくないため、家で練習ができることもウクレレの魅力でした。
ウクレレサークルの設立へ
ウクレレ歴1年ほどの松浪さんがウクレレコンテストに出場したところ、予選通過どころか、本選で入賞。他の出場者に「ウクレレ歴何年ですか?」と聞かれるほどの腕前でした。その結果を受けて、ウクレレをもっと本気でやってみようと思い、ライブステージに出るなど活躍の場を広げていきました。
そのうちに「今度は教えてみたいな」と思い、ふと地域の方につぶやいたところ、その方が周りに声をかけてくれたそうです。その結果、想定以上の10人ものメンバーが集まってしまいました。
「その頃は仕事もありましたし、10人もできないなと思って。だから、1年だけやります、5人だけですって言ったら、集めてくださった方に怒られまして。『来た人を拒んではいけない』って。」
それから、メンバーはさらに増え、約20人のサークルを仕事の傍ら5年ほど続けてきました。
起業への準備~「志師塾」との出会い~
50歳を過ぎて今後の人生を考えたときに、松浪さんはこのウクレレサークルを「本気でやったらどうなるだろう」と考えたといいます。大手デベロッパーでの仕事経験で、プロジェクトの管理・推進方法や投資効果の考え方などの知識はあったものの、経営の知識が不十分と感じていた松浪さんは、まず、横浜市が主催するビジネススクールに参加しました。しかし、想定していた経営知識は十分に得られず、どうしようかと悩んでいた矢先、新聞の広告欄に「志師塾」の広告を見つけました。
当時は「志師塾」が始まったばかりのころで、受講生の同期も7、8人でした。そんな初期の「志師塾」の受講を決めたのは、WEBを利用した集客の必要性を感じており、その解答探しが出来そうと感じたからだそうです。さらに、五十嵐塾長が同じ大学の出身だったことに親近感を覚え、その大学出身の人であれば大丈夫だろうという思いも後押しになりました。
「志師塾」では、ビジネスの基本であるマーケティングやポジショニング、選ばれる理由など様々なことを学び、その知識は実際のビジネスプランを作成するときに役立ったといいます。松浪さんは学んだことを生かし、五十嵐塾長と何度もメールのやり取りをしながら自分のウクレレビジネスをどんどんブラッシュアップしていきました。
起業へ
「経営の基本知識は学んだ、ビジネスプランも作った、とはいえ「ウクレレ事業」はあまり一般的ではないから、本当に大丈夫なのか」
自分のビジネスプランに自信が持てなかった松浪さんは、国の補助事業である「創業助成金」に応募しました。補助金の申請をするためには、申請書に記載するビジネスプランのコンセプトや将来性等などに一定の評価を得ることが必要です。「第三者の客観的な評価を受けるために補助金の申請をしました。中小企業庁が審査して、それが通ったってことは、自分のビジネスプランは間違いじゃないと思いました。」
狭き門である創業補助金を獲得したことを契機に、松波さんは59歳で大手デベロッパーを退職し、起業しました。
ウクレレサークルの拡大
松浪さんは、起業後も「自分のビジネス構想はこれでいいのか確かめたい」と、ビジネスコンテストに応募しました。そして「かながわシニア起業家ビジネスグランプリ2017優秀賞」と「かわさき起業家オーディション川崎起業家賞(2017年)」を受賞し、自分のビジネスプランが単なる思い込みではなく、一定の評価を得られるものだと確信しました。
さらに別の補助金も獲得し、新たなビジネスの構想なども練りながら事業を継続しています。
サークルを拡大するにあたっては、「志師塾」で学んだ経営知識やWEBを使った集客方法を活用することはもちろんのこと、自分なりの工夫も加え、サークルの主なターゲットであるシニア層に強い紙媒体のチラシ等も活用した地域密着戦略を積極的に展開してきました。
その結果、サークルメンバーも徐々に増え、サークル数も15つまで増えました。起業して約4年、年商は1千万円に届くほどビジネスを拡大しています。
「志師塾」で学んだことを素直に実践し、ビジネスを成功させている実例は「志師塾」の教科書にも掲載されており、「志師塾」の生徒に会うと「教科書に載っている人」と言われるそうです。
サークルへのこだわり
「ウクレレで笑顔サークル」は、「グー・チョキ・パーができる人は誰でも弾ける」「12時間で世界の名曲がマスターできる」とうたっており、音楽経験や年齢にかかわらず楽しめるサークルです。そのため、楽譜が読めないメンバーもたくさんいます。それでも簡単に弾けるための工夫として、14世紀のスペインで使用されていた「TAB譜」という弦楽器用の楽譜を使っています。これにより、楽譜が読めない人でも簡単に分かり、弾ける喜びをすぐに味わえ、どんどんウクレレが楽しくなっていきます。初心者用の分かりやすい教材も松浪さんが作っています。
また、松浪さんはサークルの参加者同士のコミュニケーションや雰囲気を大事にしており、「サークルが楽しい」と思える運営を心掛けています。サークルが増えることによって、発表会などで他のサークルとつながることもできるようになりました。ウクレレによって地域社会の人々がつながり、社会参加できる喜びを提供できることをとても大切にしています。
さらに、参加者の楽しさを増やすために、2年後に向けて、ウクレレの本場ハワイでの発表会も現在構想中です。初心者が本場ハワイで弾けるチャンスなんてそうそうありません。メンバーのモチベーションや楽しさをとことん考えて実現し、サークルに笑顔をあふれさせるための挑戦は、松浪さんにとってもわくわくすることだそうです。
ウクレレサークルの理念を拡大していくために
サークルを15つまで拡大し、サークルの意義を実感している松浪さん。とはいえ、ウクレレサークルはスモールビジネスであり、コミュニティビジネス。自分自身も60代であることから、今後サークルを積極的に拡大していきたいという思いはないそうです。
ただ、ウクレレによって人がつながり、そして社会参加できる喜びをサークル形式で提供するという理念をもっと広げていきたい思いはあります。
その実現方法として、今後は、信頼できる仲間にノウハウを共有して拡大していくことや企業とのタイアップも検討しているそうです。また、副業が増えてきている時代、ライセンス等を創設して、自分の地域でウクレレビジネスをしたい人を支援するということも考えています。
自分だけでは限度があることは周りとのコラボレーションで、それぞれの地域の人々を元気にするお手伝いをしていきたいといいます。
人生100年時代に向けて
松浪さんは、最近、テレビやラジオで取材をうけたり、講演を依頼されることが増えてきたそうです。先日は、人生100年時代について講演をしたといいます。
昔は60歳を超えると悠々と暮らすのが一般的でした。今は定年後にまだ40年も時間があります。シニアと言われる年代になっても、自分の好きなことを仕事にして、いきいきとしている姿は多くの人にとってあこがれの姿です。それでも、第2の人生で起業して成功している人は、実は少ないのではないでしょうか。実際、松浪さんが同窓会に出席すると、会社の雇用延長で働いている人がほとんどの中、松浪さんの名刺に多くの人が驚くそうです。「第2の人生での起業は、退職金を使って気持ちだけで始めると失敗してしまう。仕組みづくりが大切」と松浪さんは実体験から語ります。
「志師塾」で学んだ経営に必要な知識、自分の信じるビジネスプラン、そしてそれを実現する松浪さんの熱い思い、それが地域の人々の笑顔を作り出していく、松浪さんが今手にしているのはビジネスの成功だけでなく、たくさんの笑顔なのです。
文:那須 美紗子(中小企業診断士)/編集:志師塾「先生ビジネス百科」編集部