Last Updated on 更新日2019.5.12 by 44@jyuku
講師として独立する際にまず取り組むべきことは、「差別化できるあなたの強み」を見つけることです。世の中には、すでに数多くの方が講師として独立しています。他の講師でなく、あなたを選んでもらうための、あなた自身の「強み」は何でしょうか。まずはその「強み」を見つけ出すことから始めましょう。次に、誰に何を教えるかの方向性を決め、その需要がどの程度あるかを確認していきます。「強み」と「教える内容」、「需要」の3つがマッチすれば、次の段階に進むことができます。次の段階とは、あなたの「理想の働き方」に合った仕事の仕方を考えることです。
本記事では、自分の強みを見極めるために行う「自己分析」と、「教える内容」の決定、目指す「働き方」、独立する際の「連携先」の4つをご紹介します。
自己分析をしてみよう ~「自分史」と「強み・弱み書き出し」を使って~
社会保険労務士や中小企業診断士などの資格を活かして、講師を目指す方も多くいます。では、講師業を目指す多くの方がいる中で、「何を自分の強み」とし、「誰に向けて」、「何を伝えていく」のがよいでしょうか。最初にそれを見極めることが重要です。そのためには、まず自分自身を見つめ直すところから始めてみましょう。
「経営の神様」と言われ、PHP研究所を設立して教育にも取り組んでいた松下幸之助の名言に以下の言葉があります。
「自分には自分に与えられた道がある。
天与の尊い道がある。
どんな道かは知らないが、
他の人には歩めない。
自分だけしか歩めない、
二度と歩めぬかけがえのないこの道。(以下略)」
「自分だけに与えられているかけがえのないこの道」について、一度立ち止まって考えてみましょう。講師として、また教育者として目指す道は何でしょうか。
自己分析をすることによってその道を探していきましょう。自己分析にはいくつかの方法がありますが、今回は「自分史」と「強み・弱みの書き出し」をご紹介します。
■1.「自分史」を通して、自分を見つめる
自分史とは、その名の通り自分の経験を時系列に並べた年表のことです。それを作る目的は、過去にどのような経験をしたか可視化し、今の自分を見つめ直すことにあります。
自分史を作るにあたって、まずご自身の年齢と、「小学校」「中学校」「高校」「大学」「職業(役職)」など大まかな区分けをしてみましょう。書き出す内容は、部活、趣味、友人関係、学んだこと、感じたこと、その時の目標などです。家庭を持ったことがある場合は結婚した時期、パートナーやお子様の年齢を書き加えるのもよいでしょう。
ご自身の経歴を大きな区分で書き出した後は、特に記憶に残っているエピソードを書き加えていきます。成功したことだけでなく、失敗したエピソードも書き出します。最初は、思いつくままに書いていくので、たくさんのエピソードが並ぶでしょう。
その次に、特に印象的なエピソードにおいて、その時に何を感じたか、自分の行ったことで良かったことは何か、失敗したのであればそれはなぜか、と深く考えていきます。「なぜ」「なぜ」「なぜ」と考えていくと、自分の考え方や行動パターンの共通点が見えてきます。その浮かび上がってきた特徴が、あなた自身を形成する核となる部分といえるでしょう。
例を挙げますので、参考にしてください。
・中学生の頃、生徒会長になった
→なぜ?:学校行事で新たな取り組みをしてみたかった。
→なぜ?:新たなアイデアを思いつくより、人の意見をまとめることが好きだった。
→なぜ?:他人のいろんな考え方を知るのは楽しい。人の役に立ちたい。
【自分の考え方の特徴:好奇心が旺盛】【行動パターンの特徴:人をまとめるのが好き】
・大学生の頃、アルバイトを3つ掛け持ちした
→何を?:ホールスタッフと、コンビニのレジ、家庭教師。
→なぜ?:家庭教師は収入が高い。ホールスタッフは接客で楽しそう。
コンビニは時間の自由が利く。
→何を感じた?:人と接している時間が楽しかった。
さすがに3つ掛け持ちをすると時間の余裕がなくなり、長続きしなかった。
→つまり?:楽しいと思うことはチャレンジしたいが、予定を詰め込みすぎてしまう。【自分の考え方の特徴:好奇心が旺盛】【行動パターンの特徴:計画を立てるのが下手】
■2.「強み・弱みの書き出し」を通して、自分を見つめる
「自分史」を作ることで、自分の考え方や行動パターンが見えてきたと思います。ではそれらを踏まえて、次に「強み・弱みの書き出し」をしましょう。具体的には、考え方や行動パターンから共通のものを抜き出し、それをグルーピングします。
「自分史」での例を取り上げると、浮かび上がった特徴は以下の3つでした。
・好奇心が旺盛
・人をまとめるのが好き
・計画を立てるのが下手
実際に自分史を書きだすと、もっといろんな特徴が見えてくると思います。それらをヒントに「強み」と「弱み」を書きだします。例えば、下記のように列挙していきます。
【強み】
・好奇心が旺盛で、行動力がある
・サービス精神が強い
・人前に立つのは得意
・人の意見を傾聴できる
・一般消費財のマーケティングの経験が豊富
・IT、WEBに強い
【弱み】
・計画を立てるのが下手
・細かいことは考えるのが苦手
・新しいアイデアを出すのが苦手
・法律関係の知識が少ない
このように、自分自身の「強み・弱みを書き出し」を行いましょう。これを行うことで、この方の例では「事前にしっかり計画を立て、方向性を決められれば、圧倒的な行動力を発揮できる」という強みが見えてきます。つまり、この方の場合は「行動をする前にきちんと計画を立てる」ことに細心の注意を払う必要があることが可視化できます。
■3.将来の「自分史」を作る
過去の「自分史」と「強み・弱みの書き出し」を行ったことで、ご自身の特徴がかなり見えてきました。では、次は「将来何を為し得たいか」、について考えてみましょう。
将来の「自分史」を作るには、過去の「自分史」に年齢を書き足していきましょう。例えば、80歳までの生き方を考えるのであれば、今から80歳までについて書けるスペースを準備します。次に、ライフイベントを書き足します。結婚や、子供の誕生、進学、独立、企業勤めの方の場合は定年の時期などです。それから、ご自身が何歳までに「何を為し得たいか」を書いていきましょう。夢や目標となるものとして考えてみましょう。
例えば、下記のようなイメージです。
80歳の頃:自分は悔いのない生き方をしたと思えるようになっている
75歳の頃:孫や子供夫婦と共に、年に何度か旅行に行く(その資金を貯めておく)
65歳の頃:地元の商店街支援を行う。地域の活性化に貢献したい
60歳の頃:自分が教えてきた内容についての本を出版する
55歳の頃:商店街の活性化を行うための、知識の習得を行う
50歳の頃:趣味を1~2つ新たに見つけ、パートナーと共に参加する
45歳の頃:コンサルタントとして事業の幅を広げる
40歳の頃:講師業で、年収1,500万円を目指す
これは、人生を通して「何を為し得たいか」、「自分に与えられた道は何か」を考えるきっかけとなります。例えば、「講師業を通して知識の伝達を行いつつ、ゆくゆくは地域貢献も行いたい」などです。このように、将来の「自分史」について考えることで、遡って、今何をすべきかを考えていきましょう。
講師として教える内容を整理しよう
人生の中における講師業の位置づけを確認したあとは、具体的に講師として「誰に何を教えていくか」について整理しましょう。そのヒントは過去と将来の「自分史」や「強み・弱みの書き出し」でも整理してきた中にあるかもしれません。
例えば、例で挙げたように「一般消費財のマーケティングの経験が豊富」を強みと認識し、「一般消費財のマーケティング」を講師として教える内容とするとしましょう。しかし、同じような内容を教える講師は他にも多くいそうです。では需要や競合についても考えてみましょう。
WEB上での調査の結果、大手企業向けのマーケティング研修は、大手人材教育会社やマーケティング会社など競合が多いことが分かりました。一方で、地元企業を調べてみると、まだまだマーケティング手法に改善の余地がある、有力な中小企業がたくさんあるようです。
この調査結果に、さらに例で挙げた自分の強みを掛け合わせてみましょう。前述の「強み・弱み書き出し」の例でいくと、「新しいアイデアを出すのが苦手」と認識していて、「新たなアイデアを出して新商品開発をするのは無理そう」であるが、「IT、WEBに強い」とあります。このように、調査結果と自分の強みを鑑みると、「ITを活用したマーケティング」を活用したい「地元の中小企業向け」と、さらにターゲットや教える内容を絞ることができます。
この場合、「地元企業の一般消費財を扱う中小企業相手に、ITを駆使したマーケティング」を教えることが良いようです。このように、競合を意識しつつ、得意な分野を絞り込むことで、「〇〇といえばあの講師だ!」というように、差別化がしやすくなります。
働き方について考えよう
では、働き方について考えてみましょう。「独立」といっても、企業に勤めながら週末だけ「個人事業主」として講師業を行う方もいます。あるいは、企業勤めはせずに、完全に「講師業のみ」で収益を得る方や「講師業と他の事業」を掛け持ちで行う方もいます。ご自身に合った働き方はどのようなものでしょうか。
・週末だけの「個人事業主」
平日は企業で勤めて一定の収入を得ながら、土日などの休日を活かして働く方法です。休みが少なくなってしまうので、講師業をするのであれば「声」や「体調」を整えることに注意が必要です。
・「講師業だけ」で独立
他の仕事はせずに、講師業に専念します。大手予備校などで士業の知識(士業向けの講座の講師など)を教えつつ、講師としての登壇ノウハウを学びます。並行して、個人でも別のところで講師業を行うなど、いくつかの方法があります。
・「講師業と他の事業」の掛け持ち
例えば、中小企業診断士や行政書士、司法書士として、企業に属さず個人事業を行いつつも、講師業を始めるというものです。他の士業で得た経験や知識を活かして、講演することが可能です。
ご自身の「将来のありたい姿」から考えて、まずはどの働き方を選ぶのがよいか検討してみましょう。
連携先について考えてみよう
働き方を考えた後は、実際にどのような組織や個人と連携することで講師業を行っていくか具体的に考えてみましょう。
例えば、民間の研修会社に講師として登録するのも一つの手段です。研修会社の中には、講師デビュー前の登録者にトレーニングを行ってくれるところもあります。自分のスキルを高めてから講師デビューできるというメリットがあります。また、研修会社が営業を代行し、講師の仕事を取ってきてくれる場合もあります。
他には、商工会議所等で講師として登壇することで、収益を得る方法も考えられます。その場合は、すでに商工会議所等で講師として活躍されている方からの紹介や、商工会議所が求めている内容に応じた企画書をご自身で商工会議所に提出してアプローチを行い、登壇の機会を得るよう営業活動が必要になります。
士業の知識を活用する場合は、予備校講師という選択もあります。こちらも予備校ごとに応募ルールが異なりますので、WEBサイトなどをチェックしてみましょう。最初から登壇をする講師になる場合もあれば、税理士や中小企業診断士など講座用の問題作りをする講師や、答案の採点をする講師からはじめる場合もあります。
このように、講師としての独立をする前には、過去の自分を棚卸しし、「強み・弱み」や「将来の姿」を考えるところから始めましょう。遠回りに感じるかもしれませんが、それが、講師としてイキイキと活躍するのに必要なステップです。人生で「講師をしていて良かった」と思えるような道を歩むためにも、是非一度立ち止まって棚卸に取り組んでみてください。
文:百中さおり(中小企業診断士・健康経営アドバイザー)/
編集:志師塾「先生ビジネス百科」編集部