Last Updated on 更新日2018.11.19 by
先生業の方が、個人事業ではなく、会社を設立して事業を行う目的は何でしょう?
会社を設立すると税金面や社会的信用面でメリットがあると言われています。また、会社を設立するための条件や手続は徐々に簡素化されてきています。
会社設立は、目的なのでしょうか?手段なのでしょうか?
せっかく会社を設立しても、その実態は個人事業のままというケースを見かけます。しかし、会社設立の目的を税金面や社会的信用面だけで捉えては、本来の目的を果たしているとは言えません。
会社を設立することは、事業を運営するための組織をつくることです。会社設立は目的ではなく、手段です。会社という組織を手段にして、事業規模や事業範囲の拡大を図ることなどが、会社設立の目的です。
会社設立の流れを理解する上で、従業員が10名以上の場合と10名未満の場合で、就業規則策定義務など手続が異なります。今回は、従業員10名以上の株式会社を設立・運営する前提で会社設立による組織運営を行うための流れについて全体像を俯瞰していきます。
会社設立の全体の流れ
会社を設立するためには、会社の将来のあるべき姿を見据えた「会社の構想」を考えることと「実際に行う手続」を行うことが必要になります。
会社設立の流れを理解するため、この2つの切り口から会社設立の全体像を俯瞰していきます。
ひとつめの「会社の構想」を考える上で重要なことは、個人事業では、限界のある事業規模・範囲を会社組織によりいかに拡大させるかという点にあります。そのためのポイントは、3大経営資源であるヒト、モノ、カネの活用です。具体的には以下のような資源が該当します。
(1)ヒト=経営パートナー、株主、従業員
(2)モノ=付加価値を提供する商品やサービス、ビジネスモデル
(3)カネ=資本金、事業資金、税金
ふたつめの「実際に行う手続」で重要なことは、会社を設立するためには、義務付けられている手続があるということです。大別すると以下の2つの手続になります。
(4)会社設立登記に関する手続の流れ=定款作成・認証、出資払い込み、登記
(5)会社設立後の手続の流れ=就業規則、保険、税務署宛届出
では、具体的に2つの切り口から流れを見ていきましょう。
切り口その1:会社の構想
会社設立による組織運営を行うための経営資源(ヒト、モノ、カネ)の活用について、それぞれ重要なポイントを整理していきます。
ヒト
会社の構想を考える上で一番重要な経営資源はヒトです。経営パートナー、株主、従業員について、どのような基準で選ぶのか、会社の理念に賛同してもらえるのかについて、事前に方針・基準を定めておくことが重要です。
(1)-1.経営理念
会社にとって一番大事な経営資源であるヒトを動かす基準は、経営理念です。従業員や経営パートナーひとりひとりの行動と会社の方向性を一致させるためには、経営理念を明確化、文書化して全員に周知徹底することが必要です。
(1)-2.経営パートナー
会社の経営に関して、経営パートナー(役員)を選ぶ必要があります。そもそも個人事業としてではなく、会社として組織運営していくのであれば、役員は自分一人ではなく、複数選任することがベターです。設立する会社の企業理念や事業の方向性に賛同してもらえる人を経営パートナーとして選任します。
(1)-3.株主構成
・議決権行使
会社の重要な事項は、株主の3分の2以上で決定され、これを特別決議と言います。株主構成を考える際のポイントは、特別決議の議決権を行使できる株式総数の3分の2を誰が保有するかということです。自分自身で3分の2を保有するのか、経営パートナーと自分で3分の2を保有するのかなどの選択肢があります。
(1)-4.従業員
・規模
従業員規模について、会社設立当初は、最低限の人員で開始しますが、将来的な規模は考えておいた方がいいでしょう。会社経営を行う上で、管理面、効率性を考えて適正な事業規模とそれに対応する従業員規模を想定しておくことが重要です。
・採用
従業員を採用する場合、採用の基準を明確にする必要があります。企業理念を基本に優先順位を決めて採用の基準を統一します。例えば、採用基準として、主体性を優先するか?協調性を優先するか?などです。
・育成
従業員の育成は、会社の繁栄につながる重要なポイントです。採用した社員に対する育成制度(外部研修、OJT、人事評価制度)については、従業員を採用する前にあらかじめ概要を検討しておく必要があります。従業員ひとりひとりの成長と会社の成長をリンクさせる仕組みを作ります。
モノ
先生業が会社の構想を考える場合、付加価値を提供するサービスについて、誰をターゲットに何をどのように提供していくかが重要なポイントになります。先生業がビジネスモデル及びそれに基づく事業計画を策定して数値ベースで全体像を俯瞰してみましょう。
(2)-1.ビジネスモデル
モノとは、有形の商品だけでなく、先生業などの場合は無形の付加価値サービスも含まれます。自分や経営パートナーが持つ人脈、ノウハウ、経験などの内部的な資源に注目し、強みを活かせるビジネスモデルを描くことが基本です。
そのビジネスが位置する市場の成長性、競争環境などの外部環境も加味して、方向性を定め、目指すべきビジネスモデルを考えます。
(2)-2.事業計画
ビジネスモデルを考えることは大事ですが、計画に落とし込まなければ、具体的な行動につながりません。ビジネスモデルを基に事業計画を考え、戦略・戦術を具体化して数値目標を作成することが重要です、あるべき姿に向けて、ヒト、モノ、カネをどのように投入していくのか、精緻なものを作る必要はありませんが、数値ベースで考えることは意義があります。
カネ
会社の構想を考える上で、一番リスクの高い経営資源がカネです。ビジネスに没頭している間に気が付いたら資金がショートしていたという事態は絶対に回避しなければいけません。特にキャッシュフローの把握は必須です。まとめて対応するのでなく、日々の資金繰りを把握できる体制を作っておくことが重要です。
(3)-1.会社設立当初の事業資金計画
会社を設立する際に用意する資金は、開業資金、運転資金、生活費です。開業に際して必要な登記費用、事務所費用がかかります。事業を始めると販売費や管理費に加え、立替費用も発生します。加えて、自分の生活費も確保しておく必要があります。
(3)-2.中長期的な事業資金計画
当面の資金繰りだけでなく、将来に向けて、事業計画に合わせて資金調達を想定していく必要があります。事業計画で想定する事業規模に対応する人員、設備に必要な投資資金や事業に必要とされる運転資金などを把握しておくことが重要です。
(3)-3.経理体制
会社の利益と財産の状況を管理するための経理体制を確立する必要があります。これらの情報を計数的に把握するためには、現金出納帳や総勘定元帳など帳簿を作成する必要がありますが、コンピュータソフトの使用により作業を簡便化することが可能です。
(3)-4.銀行取引
会社を設立したら、取引銀行を決め、口座を作成します。銀行取引は複数取引として、その中の1行をメインとして取引を集中させる方法がいいでしょう。銀行取引をころころ代えることは得策ではありません。将来的な事業計画にも照らし合わせて、取引銀行の規模や特徴など中長期的な視野も踏まえて選ぶことが重要です。
(3)-5.公的融資制度
設立して間もない時期での借入には、公的融資制度を利用しましょう。地方自治体、信用保証協会、政府系金融機関などの創業支援制度を活用することができます。融資の条件、利率、限度額、返済期間などの内容は、制度毎に異なっているので、よく確認したうえで申し込むことが重要です。
(3)-6.助成金
国や地方公共団体では、雇用促進や創業支援などさまざまな助成金制度を用意しています。国や地方公共団体の助成金制度の内容を確認して条件を満たすものがあれば、積極的に利用しましょう。
切り口その2:実際に行う手続
実際に手続を行う上で注意すべき点は、ひとつひとつの手続を個別に行うのではなく、最初にすべての手続内容の全体像の流れを把握し、全体手続の対応方針を固めることです。ひとつひとつの個別手続を順次行っていくと途中で内容に齟齬が生じる可能性があり、既に終了している手続内容の変更を余儀なくされるケースが生じます。
手続内容の流れは、大別すると以下の2つになります。
(4)会社設立登記に関する手続の流れ
(5)会社設立後の手続の流れ
会社設立登記に関する手続の流れ
(4)-1.定款作成
定款とは、会社の目的・組織・活動・構成員などの基本規則を定めるものです。定款には、絶対的記載事項、相対的記載事項、任意的記載事項があります。
・絶対的記載事項とは
絶対的記載事項は、会社法の規定により、定款に必ず記載しなければいけない事項で、「商号」、「目的」、「本店の所在地」、「設立に際して出資される財産の価額またはその最低額」、「発起人の氏名または名称及び住所」、「発行可能株式総数」となります。
・相対的記載事項とは
相対的記載事項は、定款に記載しなくても定款の効力に影響はありませんが、記載がないとその効力が生じない事項で、「現物出資」、「財産引受」、「発起人が受ける報酬など」、「株式会社が負担する設立に関する費用」、「株式譲渡制限に関する規定」などがあります。
・任意的記載事項とは
任意的記載事項は、会社が決めた任意の事項を記載するものです。「事業年度に関する定め」、「株主総会の議長の定め」などがあります。
(4)-2.定款認証
定款を作成したら、発起人全員が署名捺印し、あなたの会社の所在地を管轄する公証人役場で認証してもらう必要があります。定款作成が成立したら、定款の末尾に定款を認証したことの証明文を添付してもらいます。
どこの公証人役場に行けば良いかは、下記のページで調べておきましょう。
https://www.koshonin.gr.jp/list
(4)-3.出資払い込み
出資払い込みには、発起設立と募集設立という2通りの方法があり、発起設立が一般的です。
・発起設立
発起設立は、株式総数のすべてを発起人が引き受ける手続です。定款認証が終わり次第、発起人は出資の払い込みを行います。発起人の個人名義預金口座に各発起人が振り込みを行います。出資の払い込みを証明するため、振り込みがされた口座の通帳の写しまたは銀行の取引明細書に会社代表者の証明書を添付します。
・募集設立
募集設立は、株式総数の一部を発起人が引き受け、残りの株式を一般から株主を募集して設立する手続です。募集設立の場合は、金融機関が発行する「払込金保管証明書」が必要になります。
(4)-4.登記
登記は、本店所在地を管轄する法務局に行います。登記に必要な書類(登記申請書、別紙、印鑑届出書、添付書類)を提出します。登記申請の取り下げ却下等がなければ、登記申請日が会社設立日になります。
会社設立後の手続の流れ
会社の登記後、会社としての事業活動を開始するにあたって必要な手続の流れを説明します。
(5)-1.就業規則
就業規則には、勤務時間や休日、給与などの労働条件や規程などの会社の決まりを記載します。記載事項の重要度に応じて、絶対的記載事項、相対的記載事項、任意記載事項が定められています。作成した就業規則は、労働基準監督署に提出します。
(5)-2.保険(労働保険と社会保険)
従業員の雇用環境を守るため、労働保険として労災保険と雇用保険に、社会保険として、健康保険と厚生年金保険に加入します。労働保険関係書類は労働基準局に、雇用保険関係書類は公共職業安定所に、健康保険・厚生年金保険関係書類は年金事務所に提出します。
(5)-3.税務署宛届出
法人設立届出書、青色申告の承認申請書、給与支払事務所の開設届出書、減価償却方法の届出書、棚卸資産評価方法の届出書などを本店所在地所管の税務署に提出します。
まとめ
先生業の方が、個人事業としてではなく、会社を設立して事業を行うことは目的ではなく、手段です。会社を設立して事業を組織的に運営することにより、事業の規模や範囲を拡大することが可能になります。
会社設立の流れを考える際に留意すべきことは、ヒト、モノ、カネの経営資源を活用する仕組みづくりと全体像を俯瞰した上での効率的な手続です。会社組織を円滑に運営するためにも、これらの経営資源の構想を練っておくことが重要です。企業理念をブレない軸として経営資源の活用方法を検討しましょう。
会社設立の手続は、まず、全体の手続の流れを俯瞰し、全体の対応方針を固めたうえで、個別手続に着手することが重要になります。
寺田孝雄(中小企業診断士)/編集:志師塾「先生ビジネス百科」編集部