独立開業はするべきじゃない? 先生業における独立のリスクとその回避方法

Last Updated on 更新日2021.2.15 by 川口 翔平

「あなたは今の仕事に満足していますか?」こう聞かれて即座に「YES」と答えられる人はそう多くはないでしょう。そして、その答えが「NO」であるならば「独立」という選択が自身の頭をよぎった経験があるのではないでしょうか?

それでは、なぜ「独立」が頭をよぎった時、実際に足を踏み出すことができなかったのでしょう?「独立して失敗したら収入がなくなってしまう…」、「会社の看板なしで仕事が受注できる自信がない…」、そのようなリスクを考慮してのことだったと思いますが、それらの不安は正しい事実認識の上でなされていたでしょうか?

今回は独立のリスクとその対処法について考えてみたいと思います。

そもそも独立って何?

そもそも独立するとはどういうことなのでしょうか?

「独立」という言葉に抱くイメージは人それぞれだと思いますが、ここでは「誰かに雇用されている身分を捨てて、自分自身の責任で事業を行うこと」と定義したいと思います。
会社を辞めてフリーランスで仕事を始めるのも独立ですし、主婦の方が自身の得意分野を活かしてお店を開業する場合も独立です。

先生業が独立するパターン

上場志向

先生業が独立するパターンは、例えば公認会計士の先生が、長年勤務していた大手監査法人を退職し自身の名を冠して会計事務所を設立したり、一般企業に勤めていた方が退職し自身の趣味であるフラワーアレンジメントの講師を始めたりするケースが多いと思います。つまり、個人事業所という形で独立するケースです。

もちろん、独立してすぐに法人化するケースもあると思いますが、先生業の場合は少数派でしょう。そのため、今回は個人事業所としてのリスクについて把握していこうと思います。

独立は本当にリスクが高い?

さて、インターネットをしていると、独立開業の不安を煽る広告が出てくることはありませんか?

「会社は創業後3年で70%が倒産する!」などと書かれていますが、本当でしょうか?

そのような記事には出典が書かれていないため、それらの数字が信頼に足るものなのかどうか、今ひとつ判断がつきません。したがって、まずは風説に流されないよう、正確にリスクを把握していきたいと思います。

公的な資料を調べてみた結果

公的な資料から信頼できる数字を探してみたところ、2011年度の『中小起業白書』に起業後の企業の生存率が書かれていました。それによると、企業は3年後には11%、5年後には18%、10年後には30%が廃業しているようです。

この時点で「会社は創業後3年で70%が倒産する!」という話は間違っていることがわかります。

グラフ出典:中小企業白書(2011)

しかし、今回の記事で知りたいのは企業の生存率ではなく、先生業である個人事業所の生存率です。そこでさらに詳しく調べてみると、公的な資料で個人事業所の生存率が掲載されたものは2006年度の中小企業庁の資料しかないようです。

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出典:「開業年次別 事業所の経過年数別生存率」中小企業白書(2006)

上記の図を見ても生存率はピンとこないと思いますので、わかりやすくするために表を作ったものが以下となります。

■開業年次別 事業所の経過年数別生存率(個人事業所ベース)

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出典:中小企業白書(2006)を基に筆者作成

個人事業所ベースの創業後の廃業率は3年後で約62%、5年後で約74%、10年後で約88%でした。

「会社は創業後3年で70%が倒産する!」という広告は企業の場合は間違っていましたが、会社を「個人事業所」と解釈すると、数字面に約8%の誤差があるだけでほぼ事実であることがわかりました。

しかし、ここで疑問に思うのが、なぜ10年後の廃業率が企業の場合は約3割で、個人事業所の場合は約9割なのかということです。これらの違いが発生する原因を考えながら、個人事業所が倒産のリスクを回避する方法について探っていきます。

倒産の原因

まずは、倒産の原因を明らかにしましょう。中小企業庁がまとめた2017年度「倒産の状況」によると、倒産の原因の1位は「販売不振」で69.2%、2位は「既往のしわよせ」で12.4%、3位が「連鎖倒産」で5.3%、4位が「放漫経営」で5.0%、5位が「過少資本」で4.6%でした。

ダントツで「販売不振」が原因で倒産していますが、続く2位〜4位はあまり先生業には関係がないでしょう。すると、「販売不振」と「過少資本」の問題が、企業と個人事業所の倒産率の差を生んでいると考えることができます。

悩む男性業績悪化

業種による廃業率の差

また、業種別に廃業率を見てみると、最も廃業率が低い業種は「医療・福祉」の2.4%で、次いで、先生業が属すると考えられる「その他サービス業」の約3.0%。最も廃業率が高い業種は「宿泊業,飲食サービス業」の6.4%と、固定費が大きい業種の方が、廃業率が高い傾向が見て取れます。

先生業が医療・福祉につづいて2番目に廃業率が低い理由は、他業種に比べ固定費の割合が低いからでしょう。裏を返せば、独立の際に事務所を開設し大きな固定費が派生する場合は注意が必要になるということです。

独立したら事務所は必要か?

そもそも、事務所は何故必要なのでしょうか。事務所には以下の機能があると考えられます。

(1)作業スペース
(2)接客の場
(3)保管スペース
(4)郵便物の受取りの場
(5)信用

このうち、本当に事務所費用を支払う価値があるのはどこか考えてみてください。 例えば、(2)以外は自宅でも代替可能です。

独立したら事務所を持ちたくなる気持ちはわかりますが、事務所を構えるには多額の敷金・礼金・手数料がかかります。「過少資本」が原因で倒産する可能性がある中、スタートから資本を削る決断をするのは得策ではないでしょう。

他には、SOHOなどの共同事務所に入る方法や、インキュベーションオフィス(※)に入る方法など、(1)〜(5)の条件を満たしながら固定費を安くする方法はいくらでもあるのです。

※インキュベーションオフィスとは、起業や創業をするために活動する入居者を支援する施設です。

オフィス

人件費を考える

また、同様の理由で、人件費に関しても考えておく必要があります。

売上の中で人件費が占める割合を売上高人件費比率と言いますが、TKCのデータを基に業種毎の売上高人件費比率を調べてみると、製造業や小売業で約20〜30%、飲食業で約40%、先生業が属するサービス業は約40〜60%と言われており、先生業は人件費の負担が大きいのです。

もちろん、身一つで先生業ビジネスを行っていくのであれば関係がありませんが、事業が大きくなればなるほど、上述の事務所費と共に人件費は避けることができない経費となります。

現代は、営業でも経理でもアウトソーシングが発達し、値段が手頃なものもあります。これらの外注システムを上手に活用し、固定費化を避ける工夫が必要です。

最大のリスク「販売不振」への対処法

以上のような方法で「過少資本」に対応することはできますが、一番の問題は倒産の原因の69.2%を占める「販売不振」です。この問題に対して、先生業はどのような対処をしたらよいのでしょうか?

3C分析や4P分析など、マーケティングの手法はもちろん重要ですが、こと先生業に限っては最も重視しなければいけないのはやはり「人脈」でしょう。なぜなら、他の業種にくらべて「あなただから」で仕事が来る可能性が高いのが先生業の特徴だからです。

リスク面で考えても、例えば製品であれば流行やトラブルにより売上は大きく変動しますが、人脈は時期により変動するものではありません。信頼を得ながらしっかりと人脈を築き上げていけば、増えることはあっても減ることのない最大の資産となります。

先生業の人脈形成の方法

言うのは簡単ですが、「人脈」を得ることは簡単ではありません。Facebookで友達が5,000人いても、交流会で名刺交換した人数が1,000人いても、それは人脈とは言いません。

人脈とは「信頼×継続」と言われます。

人との関係を継続的に維持し、信頼関係を構築できて初めて人脈になるということです。そうであるならば、人脈の形成には「信頼を維持するための手段」を持っていることが必要だということになります。

先生業として独立はしたが、ホームページもSNSアカウントもありません、では倒産のリスクは高まるばかりです。そこで以下に代表的な人脈形成の基礎となる「信頼×継続」のための施策を書きます。

実際に人と会う

ザイオンス効果(※)で証明されているように、人は同じ人と何度も会っているとそれだけで好印象を持ち始めます。人脈に不安がある人は「とにかく何も考えずに人に会う」と決めるだけでも、回数が増えれば増えるほど将来的な人脈形成のための原資となります。

※ザイオンス効果とは、同じ人や物に接する回数が増えれば増えるほど、その対象に対して好印象を持つようになる効果のこと。
1968年にアメリカの心理学者ロバート・ザイオンスが広めた。

SNSを上手に活用する

上述のように、実際に会うのが最も効果が高いのは間違いありません。しかし、時間や費用のことを考えると、人と会い続けることにはコストがかかりますし、長続きしません。

その点、現代はSNSが発達していますので、これを利用しない手はありません。ポイントはSNSを「信頼×継続」のツールであると割り切ることです。あくまでザイオンス効果を念頭に置き、自身とSNS上で接触してもらい関係を維持するための投稿をしなくては意味がありません。

自身の不満や他人の批判を書き込むのは論外です。

 ブログを活用する

ザイオンス効果の観点で見ると、SNSに比べてブログの優先度は下がります。なぜなら、SNSは勝手に相手のタイムラインに表示されますが、ブログは相手にわざわざ訪問してもらわなければ接触することができないからです。

ブログを更新しそのリンクをSNSに貼る方法もありますが、相手に一手間かけさせてしまいますし、リンクを貼ると表示回数が減るというデメリットもあります。しかし、ブログにはSNSの知り合いではなかった方と繋がることができるメリットがあります。ブログは、新しい人脈を広げるために有効なツールです。

 ホームページを活用する

「継続」部分の接触効率で言えば、優先度はブログよりさらに下がります。しかし、「信頼」の観点で独立の際ホームページを作成することは必須でしょう。ゼロとは言いませんが、SNSページから仕事の発注をするケースは稀で、やはり正式な発注はHP上の正規問い合わせフォームからなされるはずです。その入口を自ら塞いではいけません。

金銭面の独立の判断基準以上に挙げた人脈形成の方法は、独立後に始めたのでは遅すぎます。独立を予定している1年以上前から、自身の売りを定期的に発信し続け、ある程度地盤が固まったと思う頃が独立のタイミングです。

しかし、そのような感覚的な判断基準では最後の一歩が踏み出せないかもしれません。そのため、金銭面でも定量的な基準を設けましょう。基本的な判断基準は【売上−支出>自分の生活費】です。売上は客数×客単価で決まりますので、人脈で固めた人数に自身の単価を掛ければだいたいの額は算出できます。

支出にもいろいろありますが、諸経費は自身の事業形態に応じてざっくりと計算し、前述の固定費を加えたものが支出と考えればよいでしょう。それらが自分の生活費を上回るという確信が得られた時に独立を果たせば、10年後の1割に残る可能性は大いに高まるでしょう。

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独立することのメリット

以上、独立した際のリスクの側面にスポットを当ててその対処法を挙げてきましたが、もちろん独立にはたくさんのメリットがあります。

・自分の好きなことを仕事にできる
・定年がないので生涯収入が増える
・自分ですべて意思決定できる
・休みも自由に自分で設定できる

などです。その中でも、最大のメリットは「自身が成長できること」でしょう。

「誰かに雇用されている身分を捨てて、自分自身の責任で事業を行うこと」を独立と定義づけてここまでお話ししてきましたが、人は責任を負うと成長します。

サラリーマンも仕事を任されると成長すると思いますが、独立をするということはその責任を100%自分が負うということです。経営上の問題が起きた時、その理由を分析し深掘りしていけば、すべての問題の真の原因は「自分」になるのです。これで成長しないはずがありません。

リスクを把握した上で、全責任を自分で負い、ひとつひとつ問題を解決する中で、「自信」という名の最大の資産を得ることができます。その「自信」と共に、皆さんの事業が今後大きく発展することを願っています。

文:石田紀彦(中小企業診断士)/編集:志師塾「先生ビジネス百科」編集部

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