0.1%の市場で独自のポジションを形成する公認会計士~神野美穂~

Last Updated on 更新日2018.7.3 by

数ある資格の中でも最高難易度と言われる「弁護士」「不動産鑑定士」、そして「公認会計士」。
資格取得のためには相当な勉強量が必要な資格ですが、せっかく試験に合格しても結婚や出産をきっかけに仕事から離れる女性がまだ多いのが現状です。
今回は、公認会計士(以下、会計士)の試験合格後に出産・育児を経験し、その後社会復帰。現在は株式会社サイオンアカデミーの代表取締役として研修・コンサルティングなどで活躍されている神野美穂(こうのみほ)さんにお話を伺いました。

Q. 会計士の資格を取ろうと思った理由は何ですか?

難関試験に合格。しかし…

私は昔から「将来は育児と仕事を両立したい」と考えていました。そのためには資格が必要と考え、最高難易度と言われる会計士を目指し、2001年に合格しました。
会計士試験合格後は、大手監査法人に就職しました。仕事は楽しくやりがいがありましたが、反面、あまりの忙しさに、仕事以外のことをする時間も、勉強する時間も不足しました。自分が納得できるクオリティの仕事が出来ないと感じることが増えてきた頃、私は結婚しました。

結婚したからと言って仕事のペースは変わりませんから、朝から晩まで働いて、帰って、さらに勉強という生活で、新婚だというのにゆっくりと夫婦で話す時間もありませんでした。当然ながら、家事に時間は割けません。洗濯物を取り込んでそのままソファに置いて、下から抜いて着ていくような生活を続けていく中で、これは私が資格を取った意図と違うと思いました。

自分が思い描く未来を実現するために資格を取ったのに、資格に自分自身が振り回されていると気付き、夫の理解も得て、大手監査法人を退職しました。

妊娠・出産・社会復帰

大手監査法人を退職し出産をした後も、ありがたいことに、各方面からお声掛けいただき、お仕事をすることが出来ました。とはいえ、育児の時間を大切にしたかったため、長時間仕事に時間を割けない状態が続きました。ただ、私は「時間に制約はあってもプロとして高付加価値な仕事をする」という目標を持っていました。この時期、その目標を達成する仕事をいただくことができたので、とても充実していました。表面的には順調そのものに見えたと思いますが、その陰には課題が隠れていました。

Q. 課題とは何だったのでしょうか?

東日本大震災が教えてくれた真の課題

東日本大震災
課題に気付いたのは2011年3月11日の東日本大震災の時でした。
当時、私は二人目の子どもを出産した後で仕事をお休みしていましたが、2011年7月から職場に復帰することは決まっていました。しかし、震災後、私は復職へ強い抵抗を感じるようになりました。その理由を考えた時に、それまでの私はご依頼いただいた仕事を確実にこなす、ということに集中するあまり「新しい価値を生み出したい」「会計の良さをもっと多くの方に知っていただきたい」という会計士の勉強をしていた当時に思い描いていた自分の夢を置き去りにしていたのです。

育児との両立を考えるあまり、仕事に対して受け身になりすぎていたというのが私の課題でした。
結果として、働きたい気持ちよりも「子どものそばにいたい」という気持ちが上回っていたのです。

株式会社の設立

自分の夢の実現のため、震災後の2013年に株式会社サイオンアカデミーを設立しました。「サイオン(Scion)」は英語で「つぎ穂」「若枝」の意味を持ちます。
大地にしっかりと根を張った古い木の台木に、勢いのある若枝をつぎ穂として接ぐことで双方の良さを生かす「接ぎ木」という技術があります。社会の中で、その「接ぎ木」のように両者の魅力を高めるような役割を果たしたいという願いを社名に込めています。

現在、弊社では「研修・教育」と「人材紹介」を主な事業としています。企業に対しては研修で会計のメリットをわかりやすくお伝えし、会計士に対しては社会から会計士にどのような役割が求められているのかをお伝えすることで会計士のスキルアップを図っています。

そして、その両者を「人材紹介」という形でつなぐことで、双方に対して良い結果を産んでいます。

Q. 事業内容について詳しく伺ってよろしいでしょうか?

会計士の課題

会計士の業務に対しては、「監査」をイメージする人が多いと思います。
監査が必要な会社というのは上場企業が中心になりますが、上場企業数は2017年12月の時点で3602社しかありません。現在、日本には約380万社の中小企業がありますので、約0.1%しか存在しないのです。
私のように、大手監査法人に最初に入所した人間は、その0.1%の上場企業を顧客とする教育を受けています。経験を積み「そろそろ独立してやっていける」と思っても、上場企業を相手に培われた能力は99.9%の中小企業に対しては全く使えません。上場企業と中小企業では、抱えている課題が異なるからです。

今までは「どうすれば業績を正しく決算書に反映できるか」「どうすれば不正を発見できるのか」ということばかりを考えていたのですから、「来月の資金繰りが厳しいが、どうしたらよいでしょう?」といったご相談を受けても、役に立つ回答をすることができず、戸惑うことになります。上場企業の監査では、実際に融資を受ける方法や、返済を待ってもらう方法を学ぶことは出来ないからです。

また、中小企業の社長は「売上の伸ばし方」や、「節税の仕方」など、リアルな経営に関するアドバイスこそ聞きたいですよね。しかし、会計士は経営の中でも管理に関することには強いのですが、戦略にはあまり関わることがないため、実践的なアドバイスができないケースも多いのです。私はまさに、実践的なアドバイスができない会計士でした。
会計士

神野さんが定めたターゲット

そのような課題を抱える会計士が大手監査法人から独立してひとりで仕事を取っていくためには、大きく2つの方向性が考えられます。

  1. 監査法人にいた時と同様に上場企業やIPO準備会社をターゲットにする
  2. 中小企業の要望に応えられる会計士になる

という選択です。
私が選択したのは①です。

Q. あえて0.1%の市場をターゲットにした理由は?

大手が手を出さない事業領域を押さえる

私が0.1%の市場をターゲットにした理由は、まだ育児などのプライベートに時間を割く必要がある以上、慣れない99.9%をターゲットにするより、既に自分が持っているスキルを生かせると考えたからです。
しかし、上場企業などとお取引をしたいと考えると、四大会計事務所がライバルとなります。当然、単純に会計に関する研修やコンサルティングをご提案した場合、お客様に弊社を選んでいただく理由は何一つありません。代表である私は出産・育児で仕事のペースを落としていましたし、特別な強みもなかったからです。

そこで視点を変えて財務・経理部門ではなく、営業・開発・広報といった部門に向けてビジネススキルとしての会計の知識をお伝えすることにフォーカスし、オリジナルコンテンツを作成しました。
私は企業で起きる事実を数字で説明することができる「会計」や、その結果として作成される有価証券報告書(決算書)が大好きで、これをもっと多くの方に知っていただき、利用していただきたいと考えていましたので、その目的に沿ったコンテンツを作りました。このようなアプローチであれば0.1%の中にもまだ市場はあると考えました。

企業への研修事業

決算書というのは本当によくできていて、有価証券報告書の数字は企業の実態を鏡のように反映します。良いことも悪いことも、決算書の見方を知っていると手に取るように分かるのです。

さらに、会社の設備の予定なども有価証券報告書にしっかりと書かれています。例えば、設備の状況というページがあって、近い将来にいくらの投資をして、こういう営業所を作ります、というのはそこを見ると書いている。しかし、営業の方々はそういうことをあまりご存知ありません。新しい事業所ができるなら、それを知れば早めにその場所で販路開拓もできますし営業しやすいですよね。ですから、営業の方々に「ここを見ましょう!書いてありますよ!」とお伝えすると、皆さん喜んでくれます。

女性の中には特に数字アレルギーの方も多いと思いますが、そういう方に対して「決して難しいことではないんですよ」と女性目線で決算書の見方をお伝えするコンテンツも作成しました。このようなコンテンツも従来あまりなかったのです。
顧客目線のわかりやすい講義をしてくれると評価され、定期的に仕事を依頼してもらえるようになりました。

Q. 今後の御社の方向性は?

サイオンアカデミーの描く未来

まず、企業研修のできる会計士の育成が急務なのですが、中長期的には、そのさらに上、会社の役員級の会計士を育てる目標も立てています。その土台作りのために、戦略マネジメントゲーム®のインストラクター資格を取得し、現在会計士向けに経営スキル向上の講座を開いています。

戦略マネジメントゲームとは、経営シミュレーションのボードゲームです。材料をマーケットから仕入れ、自社工場にて生産活動を行い、製品を販売する会社を経営します。
社員の採用から配置、広告・研究開発への投資などを行いながら、競合他社との生き残りをかけ、意思決定を繰り返し、利益を上げる会社を経営します。現実の企業経営を忠実に再現した経営シミュレーションを用いて会社を模擬経営する事で、経営者として必要不可欠な、会社の仕組み、損益意識、アカウンティングやマーケティング知識について、理解が深まります。会計士が苦手とする戦略に関する知識も自然に身に付きます。
ボードゲーム神野さんがインストラクター資格を持つ戦略マネジメントゲーム®のボード

ゲームの中では会社が倒産しそうになることもあります。そういう場合には、倒産しそうな会社の経営者には一度ゲームを見ていていただき、その方に代わって私が会社を引き継いでゲームをし、利益を出す企業再生ゲームのようなことをすることもあります(笑) 私自身も、戦略マネジメントゲームを体験する前は、経営者が期末に売上げを達成するために無理に販売を行う押し込み販売を見て「なんで押し込み販売なんて意味のないことをするんだろう」と思っていたのですが、ゲームを通してどうしても期末までに一定の売上をあげたい経営者気持ちがわかりました。

また、上場企業の子会社さんに対しても「どうして親会社に自社の事情を説明することもなく、全て飲みこんで意思決定するのだろう」と思うことがあったのですが、ゲームでの子会社疑似体験で「ああ、子会社の経営者はこんな気持ちなんだ」と初めて理解できました。

足し算ではなく、掛け算の成長を

そのような経営者の感情を理解し、経営の知識を吸収していくことで、会計士にはもっと活躍のフィールドを拡げていってほしいと思っています。会計士業界は良くも悪くも男女の区別なく競争が行われているので、女性の中には働きにくいと感じる方もいると思いますが、工夫してスキルアップしていけば必ず活躍のフィールドは拡がっていくと確信しています。

会計士は真面目な方が多いので100の実力に対して、すごく難しい話を3勉強し「100足す3…」「103足す3…」というかたちでスキルアップする方が多いです。けれど、一般の方には100と103の差はわかりにくいですよね。監査をする場合にはこのような地道なスキルアップが必要です。しかし、フィールドを拡げたいと考えた場合には、そのような足し算ではなく、経営者の気持ちを理解し、新しい視点を得ることで100×3=300といった風に、掛け算になるようなスキルを身につけて能力を高めてほしいと思っています。

現在、弊社では戦略マネジメントゲームをはじめとする掛け算の作用を生むセミナーなどを開催していますが、それらの取り組みが会計士業界に拡がってほしいです。企業と会計士双方が成長した結果、企業さんで「役員の任期が終わるから、誰かいない?」となった時「サイオンさんに聞いてみるか」となるのが理想です。これは長期的な弊社の目標です。まだまだ遠い夢ではありますが、その方向に向けて会社が動き出している手応えはあります。

Q. 最後に読者の方々へメッセージをお願いします

やりたいことは多々ありますが、まずは以前の私のように専業主婦をしている会計士の方々に、ぜひもう一度社会に出てきてもらいたいですね。
会計士試験の合格者の約20%が女性です。しかし、実際の会計士になると13%しかいません。つまり、どこかで7%相当の方が会計士を廃業してしまっているのです。もしかしたら普通の一般企業でいきいきと働かれているのかもしれませんが、育児との両立が難しいという理由でやむを得ず専業主婦をしている方もいらっしゃると思います。

その方々に「会計士にも、プライベートを犠牲にしない働き方あります!」と声を大にして言いたいですね。
私自身4年のブランクがあって復帰しているので、どういう悩みがあるかわかっていますし、4年ブランクがあっても大丈夫!と言い切れます。
やりたいこと、達成したい夢があるけれど、ブランクが長いし…と悩んでいらっしゃる女性会計士の方がいらっしゃいましたら弊社HPのお問い合わせページから是非ご連絡下さい!

株式会社サイオンアカデミー
お問い合わせページ
所在地 【元赤坂オフィス】
〒107-0051 東京都港区元赤坂1丁目1−7オリエント赤坂モートサイドビル1211
電話 03-4500-1451
E-mail info@scion-academy.com

文:石田 紀彦(中小企業診断士)/編集:志師塾「先生ビジネス百科」編集部

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